新しいお祭りからふるさと納税まで?聖地巡礼が生む地域の魅力

アニメの舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」は観光学の中でも「コンテンツツーリズム」という新たなパラダイムを生み、地域振興の切り札として注目されています。ヒット作品の聖地となった地域では、案内地図の整備やイベントの実施、土産物の開発など、巡礼者に向けたさまざまな「おもてなし」をしています。今回は、「聖地巡礼」の歴史と、最近の動向をご紹介します。

【そもそもは宗教的な行事だった「聖地巡礼」】

言うまでもなく本来の「聖地巡礼」は、宗教上の聖地、霊場、本山などを巡ることで信仰を深める、宗教的な行事です。イスラム教のメッカ巡礼、キリスト教のエルサレム巡礼、日本でいえば四国八十八カ所遍路などが有名です。

そもそも聖地とは、宗教的な伝承と結びついて神聖化されている場所や、神、聖者、王、英雄などにゆかりのある聖域などの「特別な場所」を指します。ここから転じて、宗教に限らずさまざまなことがらにおける「特別に重要な場所」を指すようになりました。

アニメにおける「聖地」は、もともとその作家にゆかりのある場所を指すことが多かったようです。有名なところでは、鳥取県境港市の「水木しげるロード」や兵庫県宝塚市の「手塚治虫記念館」は、作家の生誕地で、今でも観光地として多くの人が訪れています。

【はじまりはセーラームーン】

奈良県立大学・岡本健准教授が執筆した論文「アニメ聖地巡礼の誕生と展開」によれば、アニメ作品の舞台となった場所をめぐることを「聖地巡礼」と呼ぶようになったのは1990年代だそうです。その先駆けは1992年「美少女戦士セーラームーン」だったそうで(※)、舞台のひとつとなった東京都港区麻布十番の氷川神社(作品中では火川神社)には、当時多くのファンが押し掛けました。

※論文中では、その前にも、OVA「究極超人あ~る」に登場したJR飯田線や、岡山県を舞台としたアニメ「天地無用!」で、ファンによる聖地巡礼的行為が行われていたとも紹介されています。

その後、2002年から2003年にかけてWOWOWで放送された「おねがい☆ティーチャー」「おねがい☆ツインズ」で、舞台となった木崎湖や JR大糸線など周辺地域をファンが訪れる様子が地元の新聞記事に掲載され、アニメファンの間で使われていた「聖地巡礼」という言葉が一般の人にも知られるようになってきました。

【アニメが街を変える事例も】

ブレイクしたのは2007年4月から9月に放送された「らき☆すた」です。主人公の双子姉妹が住む主人公のうち双子の姉妹が住む「鷹宮神社」のモデルとされている埼玉県鷲宮町(当時)の鷲宮神社は、2008年正月三が日の初もうで参拝客が前年の13万人から30万人と2倍以上に増えました。地元でもキャラが描かれたみこしを作ったり、当時の鷲宮町が「特別住民票」を発行したりと、地域ぐるみで盛り上げました。

聖地巡礼が街に新しい伝統を生む事例も出てきました。2011年の作品「花咲くいろは」の湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉のモデルとなった石川県金沢市の湯桶温泉では、アニメのクライマックスである架空の祭り「ぼんぼり祭り」を、2012年から実際に「湯桶ぼんぼり祭り」として開催。今や、アニメのファンだけではなく地域住民や一般の観光客も集まるお祭りとして定着しています。

【ARで願いをかなえる巡礼者】

ファンにとっての聖地巡礼の楽しさは、物語の舞台となった地を訪れることで、自分の好きなキャラクターを身近に感じ、自分もその世界の一員となった気分になれることです。そこで重要な役割を果たすのが「写真」です。SNSとスマホの普及で、訪れた場所の写真をリアルタイムにシェアする巡礼者も増えました。それでもできることなら、風景だけでなく、アニメに登場するキャラクターが現実にその場面にいるところをこの目で見たい、自分も一緒に写真に写りたい…そんな願いをかなえるのがAR(拡張現実)です。

スマホアプリ「舞台めぐり」は、「行けるアニメ」というキャッチコピーの通り、アニメのシーンとして登場した場所が「チェックポイント」として地図上に表示され、その場所でスマホをかざすとアニメのキャラクターが登場します。表示されるARコンテンツはアニメの原画を元にしているので、角度や大きさを調整することで、アニメのシーンを完全再現することも可能ですし、自撮りで、一緒に写真を撮ることも可能です。作品によってはQRコードを併用してキャラクターの声が聞けたりするものもあります。

「らき☆すた」の他、「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」(茨城県大洗町)、「orange」(長野県松本市)、「この世界の片隅に」(広島県呉市)など、話題になったアニメ作品の舞台が多数紹介されています。チェックポイント周辺のお店の情報や、イベント情報も提供されており、まさに聖地巡礼を楽しむためのアプリです。

聖地巡礼を利用して「ふるさと納税」の返礼品コンテンツを作ってしまった自治体もあります。ガルパンの舞台である茨城県大洗町は、「“行ける”ふるさと納税」として、街なかオリエンテーリング「ガールズ&パンツァーうぉーく!(以下:ガルパンうぉーく!)」を2016年12月から提供しています(2017年2月からチケット制で一般ユーザーも楽しめるようになりました)。

【正確な位置情報とナビゲーションが肝に】

聖地巡礼で重要になるのが位置情報です。現地を訪れるファンのほとんどは地元の地理には明るくないので、分かりやすく正確なナビゲーションがなくては現地にたどり着くのが難しくなります。「舞台めぐり」では、GPSとWi-Fi測位を使って、チェックポイントに接近するとプッシュ通知で知らせてくれるので、ポイントを見逃すことがありません。

また、ナビゲーションよりもシビアな位置情報が要求されるのが、AR表示です。ファンの中には「キャラクターの表示位置がすこしでもずれてしまうと、せっかくアニメの世界に入り込んでいたのが一気に現実に引き戻される」という人もいます。ビーコンを利用して精密な位置情報が取れると、聖地巡礼がより楽しくなるでしょう。

「しらべぇ」編集部によると、聖地巡礼の経験者は12.6%(全国20〜60代の男女1684名を対象にした調査)。アニメ・漫画ファンだけではなく一般の人を対象にした調査の結果だそうですから、案外多いと思いませんか?「ガルパンうぉーく!」を企画した大洗町まちづくり推進課では、企画の意図を「モノを買うだけでなく、大洗町を実際に訪れて楽しむことで第2のふるさととしてもらいたい」としています。暖かく気持ちの良い季節、好きなアニメの聖地巡礼をきっかけに、見知らぬ街の新しい魅力を探しに出かけてみるのもいいかもしれませんね。

 

【参考リンク】

アニメ聖地巡礼の誕生と展開 (岡本健、2009)
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/38112/6/chapter02.pdf

第六回湯涌ぼんぼり祭り(2016年10月)
http://yuwaku.gr.jp/bonbori2016/

「行けるアニメ」舞台めぐり
https://www.butaimeguri.com/#/

AR・GPS・QRコードを活用してアニメの聖地巡礼を楽しむ“行ける”ふるさと納税「ガールズ&パンツァーうぉーく!」体験会レポート
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000263.000000353.html

[報告] 準天頂衛星システム講演会「みちびきGO」(準天頂衛星システム:QZSS公式サイト)
http://qzss.go.jp/events/g-expo2016_161214.html

いまや「町おこし」に必須!オタクに愛される「聖地巡礼」の楽しさとは? (しらべぇ)
http://sirabee.com/2015/05/21/31831/

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全自動洗濯物折りたたみ機 “laundroid”

この記事を3行で説明すると……

  • 誕生日を教えてくれる炊飯器とは?
  • 広げて、たたんで、重ねて、分類して…… “laundroid”
  • laundroidが体感できるカフェ

【IoT家電 誕生日を教えてくれる炊飯器?】

今から一年少し前の2015年末、TwitterをはじめとしたSNS上で奇妙な話題がタイムラインを騒がせました。

「炊飯器にこの機能いります?」

とあるユーザーの投稿は、『炊飯器が誕生日を祝ってくれる』機能について、でした。
「孤独な人でも祝ってくれる」「その優しさが人を傷つける……」「誕生日には心持ちふっくら目に炊き上がるかもしれない」などと一部で盛り上がりを見せていたこの炊飯器は、シャープ株式会社「ヘルシオ炊飯器」KS-PX10B(現在は生産中止)。

ニュースリリース 『「ヘルシオ炊飯器」3機種を発売・詳細ページ』より

件の誕生日登録機能は「おしゃべりで暮らしにヒントを与える」とする「ココロエンジン」の機能の一つ。登録しておいた誕生日にフタを開けると、ファンファーレにも似たメロディーの後に「お誕生日、おめでとうございます!」と音声が流れます(ヘルシオ炊飯器のサイトで音声を聞けます)。

ひょんなことから注目を集めることになったヘルシオ炊飯器でしたが、旬の食材を教えてくれたり、健康に気をつけたメニューを提示してくれたり、自動攪拌機能がついていたりと、便利なスマート家電だったのです。

【laundroid】

ヘルシオのように様々なスマート家電が誕生する中、2017年に予約販売が始まるIoT家電がlaundroid(ランドロイド)です。

自動洗濯機の登場から、乾燥機、食洗器、ルンバをはじめとした自動掃除機といった家電に続き、「衣類の整頓」を可能にした世界初の全自動衣類折りたたみ機がlaundroidです。

画像解析(衣類の形状認識)、A.I(たたみ方の判断、経験の蓄積)、ロボティクス(アームを使った実際のたたむ作業)を組み合わせることで、衣類を入れるだけで衣類を判別、広げてたたんで仕分けて重ねて、というわずらわしい作業を完遂してくれます。

専用アプリを使用してスマホから操作できるほか、下着や靴下などの「たたまないもの」との仕分けはもちろん、「家族ごと」や「アイテムごと」の分類をし、種別毎に重ねてくれる優れもの。

またサーバとの通信機能を備えているため、順次アップデートが可能。
更に詳細なたたみ方設定の実現や、靴下のペアリングなどへの対応も期待できます。
最近はインターネット環境が整ってきたこともあり、ゲーム業界をはじめ、まずパッケージをリリースし、微調整や要望反映、新機能の実装などをアップデートで対応するケースが増えてきています。
ひとまず現状で実現できる機能を実装し、順次アップデートすることで機能を追加していくという手法は、家電業界でもスタンダードになっていくかもしれません。
車の購入時のようなオプション選択を、商品購入後に振り込みと引き換えにアップデートできるような仕組みができれば商品開発も1点で済むので、メーカー側にもメリットは大きそうです。

laundroidは、今後病院や介護施設に向けた業務用の開発から、洗濯乾燥機と組み合わせた「洗濯から折りたたみまで」のオールインワン化、住宅設備に埋め込むことで壁面の中のダクトを経由して個人の部屋のキャビネットに直接送り届けるビルトイン化などを視野に開発が続いています。

一生で9000時間かかるという洗濯物の整頓時間(4人家族換算)。1年近い時間が浮けば、家族団欒や趣味に没頭できる時間も増えそうですね。

【laundroid café】

表参道では3月18日、laundroidのティザーモデルを展示したカフェレストラン「laundroid café」がオープン。laundroidのティザーモデルを設置し、実機をいち早く目にすることができます。
プライベートスペース「laundroid room(完全予約制)」ではランドロイドの実機を体験、映像演出によりランドロイドのテクノロジーを体感できます(夜のみ)。

カフェ内では飲食店向けIoTソリューション製品「noodoe」(ヌードー)を採用。
利用客が、「水」「オーダー」「会計」等の記載された面を上にテーブル上のブロックを倒しておくと、Bluetooth Smartで連携したスタッフのリストバンドに要件が伝えられ、スムーズなオペレーションが期待できます。

※ニュースリリース 『日本初!キューブ型コールベル。 飲食店向けIoT『noodoe(ヌードー)』を販売開始 ~お客様「すみません」、店員「はーい、今伺います」をなくして新しい注文体験を~』 より

デザートには都内某所で人気を博す会員制馬肉専門店「ローストホース」監修の氷冷スイーツの提供や、超特濃ごまアイス専門店「GOMAYA KUKI」の併設、完全会員制の「焼かない」焼肉屋「29ON(ニクオン)」の営業(夜のみ)など、カフェ本来の食の魅力もしっかりとアピールしています。

【スマートハウス】

laundroidの登場は家事の全自動化という面において、我々に新しい世界を見せてくれています。家電をはじめとするIoT化は、最終的に統合されたスマートハウスという一つのライフスタイルに収束するのではないでしょうか。

自宅のドアを出れば、ジオフェンスに連動してエアコンやカーペットの電源はOFF。Bluetoothで連携した鍵が自動で閉まって防犯装置が作動。外出しながら洗濯や食器洗いは全自動で終了。今後のlaundroidのように家族それぞれのクローゼットに分類してくれたら便利ですね。
帰宅予想時間や現在地からフィードバックされたデータを元に炊飯器とお風呂が動き始め、家に到着する頃にはエアコンもバッチリ。家電の操作に必要なのは、屋根に設置された太陽光発電や自家用車の蓄電から……。
そして、全てを司るのは、手元にあるスマホで。自宅から、外出先から手軽に自宅の全てを操ることができる時代の到来も、そう遠くない未来かもしれません。

【参考リンク】

誕生日を登録できる炊飯器、「何のため」と話題に シャープの回答は
http://withnews.jp/article/f0151216000qq000000000000000W00o0901qq000012848A

lanudroid 購入宣言
https://laundroid.sevendreamers.com/declare_campaign/

 

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野生動物による農産物被害を防ぐドローンの大きな可能性

近年、鹿やイノシシ、サルなどの野生動物が山から下りて人の住む集落に出没する事例が増えています。獣害対策へのジオフェンス活用の可能性について考えてみましょう。

【天然のジオフェンス「里山」の衰退がそもそものはじまり】

昔は山の動物と里の人間は、山から動物がたまに下りてくることがあっても追い払うことで、うまく共存できていたのです。近年になり被害が拡大しているのには、狩猟による個体数調整が機能しなくなったことや暖冬化により雪が減って生息適地が増えたことなども理由なのですが、そもそも山と里の境界「里山」がなくなってきたことが発端なのだという説があります。

里山とは、人間が住む集落に隣接しており、人が手を加えた生態系が存在する山林です。薪を取ったり、肥料として利用するための草を育てるための伐採により、野生のままの森林よりも樹木がまばらで見通しが良くなっていました。野生動物とは本来臆病なものです。遠くから人間の姿が見通せれば、わざわざ人の住むところまで近づいては来ませんでした。

ところが電気やガスなどの普及により薪利用が減り、農村の過疎化や高齢化もあって、里山を人間が利用しなくなりました。その結果、里山には木が生い茂るようになりました。「里山」という、人間と野生動物の生息地を仕切る天然のジオフェンスが消えてしまい、人間が生活する里と動物が住む森林が地続きになってしまったのです。

うっかり森林の外に出たところで人間と遭遇した動物は、命の危険を感じて人を襲うこともあります。また、人が住むゾーンには、畑の作物や果物など、野生動物の食料である木の実や草に比べると栄養価が高く美味しい食料が、一カ所にまとまってたくさんあります。一度その味を覚えてしまえば、人間と出会う危険があっても、食料を求めて里に下りてくるようになります。食べ物が増えれば繁殖もさかんになり、数も増えます。数が増えればますます食料が山のものだけでは足りなくなり、人里へと日常的に出没するようになるのです。

【位置情報の把握が対策の第一歩】

獣害防止の対策は、罠による捕獲や狩猟などにより個体数を減らす「頭数調整」、人里へと入ってこないように境界を設ける「ゾーニング」、そして本来の生息地へと野生動物を追いやる「追い払い」の3つに大別できます。いずれの対策でも、群れの位置を把握することは効果的な対策の第一歩です。

位置の把握には、群れの中の個体を捕獲し、首輪や足環などにテレメトリー(電波発信器)を着けて放すことで、電波を利用した位置の特定を行います。最近は、GPS受信機の小型化により、GPS搭載のテレメトリーから位置情報を受信し、地図上で位置を確認できる製品も増えています。

【柵を作るだけでは限界がある】

位置情報の把握によって群れの行動が分かったら、対策を検討します。「頭数調整」には狩猟免許や罠免許の準備が必要となり、また捕獲した動物をどうするかも考えなくてはいけません。比較的取り組みやすいのは「ゾーニング」と「追い払い」です。

「ゾーニング」は、集落を囲む柵を作ったり、里山の代わりに山林と里を仕切る緩衝帯を整備することで、動物が近づきにくくする方法です。柵は金網、トタン板、鉄条網などを用いた、物理的に侵入を阻止する柵と、触れた時に電気ショックによって「ここに近づくと嫌なことがある」と心理的なバリアを設ける電気柵があります。

柵の効果を発揮するためにはメンテナンスが重要です。物理的な柵であれば穴があけられてしまえばそこから侵入されますし、電気柵であれば草が茂って漏電することで電圧が下がり、触っても電気ショックを与えられなくなってしまいます。だからといって電圧を上げ過ぎると、今度は人間が誤って触れてしまう事故につながります。

また、苦労して柵を作っても、頭の良いサルは避け方を覚えてしまうことも多く、柵だけで野生動物の侵入を防ぐのは難しいのが実態です。

【必要だが住民の負荷が高い「追い払い」】

そこで重要になるのが、柵を超えてきたり、柵に近づく野生動物を山に追い返す「追い払い」です。さまざまなイラストをフリー素材として提供している「いらすとや」で、「エアガンでサルと戦う主婦のイラスト」が話題になりましたが、まさしく動物の追い払いは集落総がかり戦です。

とはいえ、獣害が問題となるような農村では少子高齢化も同時に進んでおり、住民パワーだけでは効果的な追い払いができないケースも出てきています。

人だけでは困難な追い払いをサポートするために、サルの追い払い訓練を受けた「モンキードッグ」の活用も進められています。2005年に長野県で導入が始まり、2014年には23都道府県で約350頭のモンキードッグが活躍しています。とはいえ、犬の訓練には時間も費用もかかりますし、犬を扱うハンドラーの訓練も必要ですから、なかなか増やすのは大変です。

【「ドローンでサル追い払い」の実証実験】

そんな課題を解決できそうなのが、平成28年度「神奈川版オープンイノベーション」開発プロジェクトに採択された「ドローンによる猿の追い払い」(プロジェクト幹事会社:明光電子株式会社、プロジェクトメンバー:株式会社野生動物保護管理事務所、開発委託先:株式会社サーキットデザイン)です。2017年3月、実証実験の動画が公開されました。

猿の群れにGPS首輪を取り付け、位置を特定した後、ドローンをその上空で飛行させることでサルを追い払えることが分かりました。さらにこの実証実験では、GPSの位置情報を利用して、群れを自動追尾することで猿を山の上まで「追い上げる」可能性も検証しています。

 

【ジオフェンスを組み合わせた全自動追い払いの可能性】

大きな可能性を感じる研究成果ですが、動画を見ていただくと分かる通り、現在のシステムでは、追跡を開始する位置のGPS座標は手作業で確認する必要があります。常時リアルタイムで位置情報を取得可能な設定にすると、テレメトリーのバッテリー寿命に影響するからだと思われます。GPS首輪にタグ状ビーコンを同居させ、集落の周囲にジオフェンスを張り巡らせることができれば、「集落の周りに張り巡らせたフェンスを猿が超えたことを検知したらトリガー信号を発して、リアルタイム追跡を開始すると同時にドローンが発進してサルを追い払う」という、全自動のサル追い払いシステムが実現できるかもしれません。

動物福祉の観点からも環境保護の観点からも、野生動物と人間はお互いの生活へのかかわりを最小限にとどめてそれぞれが別々に暮らせることが望ましいのです。放棄作物や果樹などを放置しないことで集落に動物が集まる要因を排除するとともに、集落からの「追い払い」・山への「追い上げ」という、動物を傷つけない手段が手軽に利用できるようになればと期待しています。

【関連情報】
ドローンを利用したニホンザルの追い払い支援ロボットの開発(明光電子 ブログ)
http://blog.meicodenshi.com/2016/10/20/ドローンを利用したニホンザルの追い払い支援ロ-2/

動物行動調査用テレメトリー発信器 (サーキットデザイン)
https://www.tracking21.jp/

鳥獣被害対策コーナー(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/

野生動物管理システムハンドブック ニホンザル・ニホンジカの総合的な被害対策のすすめ方(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_manual/h24_03/index.html

【南魚沼】地域ぐるみのサル・クマ対策を始めませんか (新潟県)
http://www.pref.niigata.lg.jp/minamiuonuma_kenkou/1356807610113.html

急増する野生動物被害 ~拡大の実態~ – NHK クローズアップ現代+
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3497/1.html

 

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LPWAゲートウェイは地方における見守りのインフラになる(という予想)

位置情報の活用事例として有用性が期待されているのが「見守り」です。2016年に神戸市とNTTドコモがBLEタグを活用した子供の見守りの実証実験に取り組むなど、自治体も参画した数多くの取組が行われています。今回は見守りの中でも「高齢者の見守り」に注目してみましょう。

【子供と高齢者の大きな違い】

子供の見守りと高齢者の見守り、機能としては「位置情報が分かるものを身につけさせ、その位置情報を何らかの方法で取得して第三者が追跡できるようにする」ということで、大差ないように見えます。しかし、サービス提供者に聞くと、高齢者ならではの配慮が必要な点があるのだそうです。

大きな違いは、「出かける時にわざわざ端末を持って出かけてくれると考えてはいけない」ということです。基本的に保護者が管理して持たせる子供向けの見守り端末とは異なり、高齢者の場合は持ち物の管理者が状況により異なります。

健康な人であれば自分の持ち物や身につけるものは、自分で管理していますが、今まで持ち歩く習慣がなかった持ち物は、どこかに置き忘れたり、つい持つのを忘れて出かけてしまうことも多いでしょう。また、認知症などで持ち物の管理を介護者がしている場合であっても、徘徊など見守りシステムが本当に必要になる状況で、見守り端末を持って出かけてくれることはとても期待できません。わざわざ端末を持つのではなく、普段身につけているものに「自然に」組み込まれていることが求められるのです。

その点で画期的だったのが、2015年5月に開催された「第4回 IoT/M2M展」にNTTドコモが発表した「見守りシューズ」です。靴であれば外出する時には必ず履きますし、万一靴を履き忘れて外出してしまえば、周囲の人が異常に気づいて止めてくれます。

「見守りシューズ」は、靴の中敷きの下にGPS端末を埋め込んで利用します。ドコモの「かんたん位置情報サービス」を利用してパソコンやスマートフォンから位置を検索できます。出展後、数社が製品化しています。

【悩ましい充電問題を解決できるBLE】

見守り端末でもう一つの大きな問題が充電です。「見守りシューズ」で使用しているドコモの小型GPS端末は、1週間に1回程度の充電が必要で、靴の中から端末を取り出す必要があります。難しいことではありませんが、なるべくなら充電は少なく済ませたいものです。

ひとつの解決策は、低消費電力で長時間のバッテリー駆動が可能なBLEタグの活用です。最初に紹介したドコモと神戸市の実証実験では、見守り端末としてBLEタグを持たせました。定点に設置した受信機や専用アプリをインストールした実験協力者のスマートフォンを検知ポイントとして利用し、その近くをBLEタグが通った時に自分の位置を通知することでタグの位置をサーバーに記録し、精度の高い見守りを実現しました。

神戸市ドコモ見守りサービス(実証事業)の概要

同じ仕組みを靴の中に入れられれば、充電がほぼ不要な見守りシューズが実現できそうですが、ここでもう一つ問題になるのが位置情報の取得方法です。神戸市の実証実験では、BLEの通信距離が数十m程度と短いことを利用して、検知ポイントの位置をBLEタグの位置とみなして記録しています。この仕組みは人口密度が高く、検知ポイントを設置できる場所が多い都市部であればとても有用ですが、人口の少ない地方部では検知ポイントがまばらになってしまうため、適切に位置情報を取得するのは難しくなります。そのような場所ではやはりGPSを使いたいところです。

【見守りシステムにおけるLPWAの可能性】

ここで役立ちそうなのが、LPWA(Low Power、Wide Area)と呼ばれる、新しい無線通信規格です。その名の通り、低消費電力で数kmから数十kmという長距離の伝送が可能で、IoT向けの通信規格として注目されています。最近ニュースでもよく聞くのが、LPWAの規格の一つであるLoRaWANです。

LoRaWANは900MHz帯のアンライセンスバンドを使う通信規格なので、直接インターネットに接続することはできません。データをサーバーに送るためには、携帯電話網や固定網に接続されたゲートウェイを経由する必要があります。NTTドコモは、LoRaWANのトライアル環境を法人向けに提供する実証実験を2017年4月から開始することを発表しました。他にも複数の通信事業者がLoRaWANをはじめとするLPWAネットワーク構築への取り組みを発表しています。

ドコモが提供するLoRaWAN実証環境

GPSを利用した見守り端末では、衛星から取得した位置情報を、サーバーに伝達するための通信手段が必要です。その際、携帯電話網を使うよりは、LPWAを使う方が、見守り端末のバッテリー寿命は長くなります。2017年2月に発表された「みまもーら」というリストバンド型見守り端末は、LoRaWANを使用しており、「10年間電池無交換」をうたっています(※実際のバッテリー寿命はGPSの起動回数によります)。

この仕組みをそのまま靴の中に入れれば、「見守りシューズ」の充電問題も解決できそうです。問題は、現時点でLoRaWAN網は携帯電話網のように「どこでもつながる」ネットワークではなく、LoRaWANゲートウェイを自分で設置する必要があることです。

【LoRaWANネットワークのシェアリングモデルが日本を覆う日】

もちろんゲートウェイが無いわけではなく、ドコモのMVNOであるソラコムはLoRaWANをLTE網を経由してインターネットに接続する「SORACOM Air for LoRaWAN」を2017年1月から商用サービスとして提供しています。ユニークなのは、ゲートウェイの提供形態として、自社所有のゲートウェイを設置して利用する「購入モデル」と、誰にでもLoRaWANが利用できるよう公開することを条件に、ソラコム所有のゲートウェイを設置することで大幅に料金が安くなる「共有サービスモデル」の2つのモデルを用意していることです。同社は共有サービスモデルを「個人の開発者や少数のLoRaデバイスを試作/検証したい企業などを支援する」ためのものとして位置付けています。

ソラコムのLoRaWANゲートウェイ共有モデル

このような考え方でLoRaWAN対応の見守り端末を利用している個人宅のゲートウェイを他の端末でも共有することができれば、より安く、広範囲に対応した見守りサービスの提供が可能になります。

LoRaWANをはじめとしたLPWAのユースケースとして有力視されているのが、農業、防災、橋や道路などのインフラ監視などのセンサー向けのデバイスへの活用です。こうしたアプリケーションで使用するLPWAゲートウェイも共用できれば、地方での見守りサービスの範囲がさらに広がりそうです。また、登山道沿いやスキー場に設置すれば、登山者やスキーヤーの捜索にも役立つでしょう。もちろんゲートウェイ自体も電池駆動で長期間電池交換不要で動く必要がありますが、ドコモではそうした実験にも取り組んでいます。

ということで、LPWAのゲートウェイはここ数年の間に、都市部だけではなく山間部や島しょ部など現在携帯電話が届いていないような場所でも使える見守り網としての利用が広がるのではないかと予想しています。39Geoplaのジオポイントとして各地に設置されたLPWAゲートウェイも活用できるようになると、さらにいろいろなことができるようになるかもしれませんね。

【参照情報】
うららかGPSウォーク(株式会社トレイル)
http://www.uraraca.net/rehabili-shoes/gps-walk.html

神戸市ドコモ見守りサービス(実証事業)の開始 -41社の事業者の協力を得て見守りネットワークを形成-(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2016/09/15_00.html

LPWA通信を活用したIoTサービスを実現する「ドコモIoT/LPWA実証実験環境」を提供(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2017/03/13_01.html

株式会社みまもーら http://www.mimamora.com/

IoT 通信プラットフォーム「SORACOM」のLoRaWAN™ 利用においてLoRa ゲートウェイを「共有」する新サービスモデルを開始 LPWA のシェアリングエコノミーを目指す(株式会社ソラコム)
https://soracom.jp/press/2017020702/

様々なIoTサービスに利用可能なLPWA対応IoTゲートウェイ機器の実証実験を開始(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2016/11/15_00.html

 

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