あなたの目の前で突然、人が倒れました。声をかけても意識がないし、呼吸も脈もありません。「まず救急車を呼ぼう」そこまではほとんどの人が思いつくでしょう。しかし、実際に目の前の人が助かるかどうかは、救急車が来るまでの間の処置にかかっているのです。
刻々と下がる生存率、助けるためのCPR
心肺停止から1分経過するごとに、生存率は7-10%ずつ低下していくというデータがあります。東京都の場合、119番通報から救急車が現場に到着するまでの所要時間は平均10.7分。つまり救急車が来るまでの間何もしないで待っていては、高い確率で目の前の人は助かりません。
助けるためにはすぐにCPR(心肺蘇生法)、すなわち心臓マッサージを開始することが重要です。心肺停止状態になった直後、心臓は、心室細動(心臓の筋肉が細かく痙攣して血流を送り出せない状態)になっています。最近あちこちに設置されているAEDは、この状態の心臓を電気ショックによって動かすもので、心室細動も止まってしまっては効果がありません。CPRは、AEDが届くまでの間心室細動を維持し続けるために通常の30%程度の血流を流し続けるためのもので、休まず続ける必要があるのです。
そういわれても心臓マッサージなんて自分にはできない、周囲の人に助けを求めても自分と同じように見ているだけしかできそうにない…そんな時に、救急救命資格を持った人に助けを求められるアプリ「Coaido119」の実証実験が、豊島区で始まりました。
119と同時に周囲の人とAED設置施設にSOSを発信
Coaido119は、119に電話する時に、アプリをダウンロードしている救急関連資格のある人に助けを求めることができるアプリです。また、救援を求めると同時に、近くのAED設置施設に自動音声で電話をかけ、要救援者がいる場所の位置情報と、AEDを持参して欲しいことを伝えます。現在はiPhone(iOS10以上)で利用できます(Android版は開発中)。
利用者は実名を登録しますが、アプリ内で表示されるのはニックネームです。消防署などが行う救急救命講座の修了者や医療関係者など、救急関連資格を持つ人は、保有している資格の証明書を送信することで、「救急情報受信者」としても登録されます。
アプリを起動すると、目の前の人の状態を選択するセルフトリアージ画面が表示されます。もっとも重篤な「心停止」状態を選ぶと、位置情報をもとに現在地付近の地図が表示され、同時にカメラで周辺の状況が撮影されます。地図上で位置を合わせて「SOSを発信」ボタンを押すと周囲にいる「救急情報受信者」にSOSが送信され、同時に自動音声でAED設置施設に電話がかかります(AEDエリアコール)。さらに、「119に発信」ボタンをタップすると、そのまま119に接続され、救急車を呼ぶことができます。
池袋駅から半径1km以内で助けを呼べる
実証実験では、池袋駅から半径1km以内でSOSを発信することができます。2018年10月までは事前説明会に参加した豊島区内の企業・団体を中心したクローズドβテストを行い、11月以降は豊島区在勤在住の一般ユーザーまで対象を広げます。
アプリを開発したCoaidoは、創業4年目を迎えます。過去3年間は「テクノロジーで緊急対応」を目指し、日本各地で救急の現場にAEDを早く届けるための実証実験を行ってきました。創業4年めとなる2017年、経済産業省の第3回IoT Lab Selectionでグランプリを受賞。豊島区の後援により、都心部での実証実験が実現しました。
8月28日、豊島区内の事業者やAED設置施設管理者を対象にした説明会が開催されました。豊島区では区内のAED所在地の地図を独自調査で作成しており、現在640カ所が掲載されています。「せっかく地図を作ったのですが、区民の方にはうまく伝わっていない。今年から3年かけて、区内のファミリーマート100店舗にAEDを設置する事業を始めました。今年の春にCoaidoを紹介され、このアプリで救命率が上がることを確信したので、実証実験後援を引き受けました」と、豊島区危機管理監の今浦勇紀氏は期待を示しました。
説明会では参加者がチームを組み、実際にアプリを訓練モードで利用して、倒れている人を見つけた人が助けを呼び、メッセージを受信した人が駆けつけてCPRを実施、AEDを持参した人が到着したら装着してAEDを起動するところまでを体験しました。

課題は登録者数を増やすこと
筆者も訓練用の人形を使った心臓マッサージを初めて体験しましたが、これはきちんと講習を受けてやり方を覚えなくては難しいし、できたとしても一人で長時間続けることは困難だと実感しました。複数の人が交代で救急車が来るまでの間CPRを続けるためには、声を出して呼びかけるだけでなく、「近くにいる心臓マッサージができる人」が集まってきてくれる仕組みはとても心強いものになるでしょう。
AEDエリアコールに登録されている設置場所にジオフェンスを設定すれば、AEDを取りに来た人がアプリを使ってたどり着けるようになるので、さらに生存率を高めることができるかもしれませんね。
実証実験を成功させるには、アプリをインストールして登録してくれる人が増えること、特に救急資格を持つ情報受信者と、エリア内のAED設置施設の登録が増え、「助けを求めた時に応えてくれる」アプリになることです。豊島区での実証実験で成果が出れば、他のエリアへの展開にも弾みがつきます。豊島区在勤在住の方は、ぜひアプリをダウンロードしてみてください(※クローズドβ期間中のアプリ利用には認証コードが必要です)。また、AEDを設置している企業や施設の管理者の方は、ぜひ「AEDエリアコール」への登録をお願いします。
【関連情報】
画像提供:Coaido
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