位置情報活用にも欠かせない宇宙天気予報

2017年9月6日、通常の1000倍のエネルギーを持つ巨大太陽フレアが発生し、磁気嵐による電波障害やGPS測位の誤差の増加、もしかすると大規模停電が発生するかもしれないというニュースがありました(冒頭の写真は人工衛星SDOで観測された太陽画像(左: 可視光、右: 紫外線))。今回は、こうした予報を行う「宇宙天気予報」について取り上げます。

そもそも宇宙天気って何?

宇宙天気とは、宇宙区間に存在する荷電粒子による宇宙環境の変動をさします。太陽の活動に伴って発生する太陽フレアや太陽風は、ジオスペース(地上、大気圏、放射線帯を含む周辺の宇宙空間や太陽風が吹く惑星間空間)に、磁気嵐や高エネルギー粒子の増加、オーロラなどのさまざまな現象をもたらします。

太陽や太陽風を観測することで宇宙天気を予測するのが「宇宙天気予報」です。ジオスペースにはGPS衛星や気象衛星、通信衛星を含む数多くの衛星もあれば、現在は宇宙飛行士が滞在してミッションを行っている国際宇宙ステーション(ISS)もあります。そして地表近い高さには航空機があり、ラジオや無線通信の電波が飛んでいます。そして地表には送電網が広がっています。これらは全て宇宙天気に大きな影響を受け、故障や機能停止に陥ることもあります。

先週(2017年9月6日)発生した巨大太陽フレアの影響としては、GPS測位精度が実際に低下したり、一時的に短波無線のブラックアウト(不通)が発生したことが報告されています。また今回は電力網には影響がありませんでしたが、1989年3月発生した巨大フレアとコロナ質量放出に伴う磁気嵐では、カナダのケベック州の発電網の機器に障害が発生して9時間にわたる停電が発生した他、気象衛星との通信途絶や衛星の電子部品の故障も発生しました。そうした事態を未然に防いだり、影響を極力小さくするために、宇宙天気予報は重要なのです。

太陽からの風を読む

地上では風といえば空気の動きですが、真空のはずの宇宙を吹く太陽風の正体は、太陽から放出される荷電粒子(電気を帯びた粒子)です。

太陽の表面には、コロナと呼ばれる100万度以上という超高温で、密度の低い薄い大気があります。普段は太陽の光にかき消されて見ることはできませんが、皆既日食の時には月に隠された黒い太陽の周辺に白く光っているのを見ることができます。

超高温の状態では、気体は電子とイオンに電離したプラズマという状態になっています。太陽風は、この高温の荷電粒子が太陽の重力を振り切って放出されたもので、太陽から遠ざかるほど速度は遅くなり、地球軌道付近では平均すると秒速450㎞程度、約10万度の温度となっています。

もちろんこんなものが地表に降り注いではひとたまりもありません。地球を守る役割を果たしているのが、地球の磁場です。太陽風は荷電粒子なので、地球の磁場の磁力線によって進行方向を曲げられます。大半はそのまま地球の裏側に回り込み遠ざかっていきますが、一部は磁力線に沿って北極・南極付近に溜まります。そこで条件が整うと窒素や酸素と衝突して、オーロラが発生するのです。

 

太陽フレアとコロナ質量放出

宇宙天気予報で重要なのが、太陽フレアの活動です。太陽フレアとは、太陽の表面で観測される現象で、明るく炎が燃え上がったように見えることからそう呼ばれています。太陽黒点の周辺で、磁力線が突然つなぎ変わる「リコネクション」という現象により発生するとされており、フレアの発生と同時に、大量のX線やガンマ線が放出されます。

電磁波は放出から約8分で地球に到達し、電波障害などの原因となります。さらに数時間後には放射線が到達します。衛星の太陽パネルや部品を破損したり、宇宙飛行士が被ばくすることもあります。

太陽フレアは通常時でも1日3回程度は発生していますが、特に規模が大きなフレアが発生したときは、多くのX線、ガンマ線、高エネルギー粒子が放出されると共に、コロナの中の物質(荷電粒子)も同時に宇宙空間に放出される「コロナ質量放出(CME)」という現象が発生します。コロナ質量放出は通常の太陽風よりも高速な、秒速1000km程度の速さで移動します。荷電粒子の塊のようなものですから、その全面には強い衝撃波も発生します。フレアの発生からおよそ2-3日で、地球近辺に到達します。

地上の送電網に影響を与えるのは、このコロナ質量放出の本体です。地球に向かってきた場合、大量の荷電粒子が地球に降り注ぐことにより発生する大規模な磁気嵐で、天空にはオーロラが舞いますが、地上の送電網には大きな誘導電流による設備故障が発生して、大規模な停電が発生します。

2017年9月6日に発生したコロナ質量放出は、当初の予報では地球を直撃するとされており、大騒ぎになったのです。その後予報は修正されて、若干向きが逸れたことで、幸い送電網に影響を与えるような規模の磁気嵐にはなりませんでした。

宇宙天気予報を可能にする観測網

宇宙天気予報は各国で行われており、日本では1988年からNICT(情報通信研究機構)のNICT 宇宙天気情報センターが毎日午後3時に「フレア」「地磁気」「高エネルギ―粒子」について24時間の予報を発表しています。

NICT 宇宙天気予報(http://swc.nict.go.jp/contents/index.php)

予報には衛星や電波望遠鏡による太陽観測情報に加えて、気象衛星によるX線や高エネルギー粒子、ラジオゾンデを使用した静止軌道の高エネルギー電子に関する情報、各地の地磁気観測、イオンゾンデという機器を使用した電離層観測などのデータが利用されています。また、地球と太陽の引力がつりあうラグランジェ点では、探査機ACEが太陽風の速度、磁場、温度、密度などのデータを常時観測しており、NICTはこの探査機からのデータを直接受信しています。

予報精度向上にAIも活用

さて、従来の宇宙天気予報では、太陽観測によりフレアが発生したことを確認してから、その後の変化予測に基づく予報を出していましたが、フレアそのものの発生を予測することは困難でした。

2017年1月、NICTは、機械学習とビッグデータを用いた予測モデル開発により、宇宙天気予報の精度を格段に上げることに成功したと発表しています。具体的には、過去の黒点画像と発生したフレアを対応させたリストを作成し、これを学習データとして、大きなフレアが発生したときの黒点の特徴を機械学習で見つけ出しました。このモデルを使用した結果、最大規模(Xクラス)から中規模(Mクラス)のフレアについて、従来5割弱程度だった予測精度を8割にまで引き上げ、世界トップクラスの予測精度を達成しました。

また、国立極地研究所は、コロナ質量放出時に伴い地球に運ばれてきた磁場についてもシミュレーションできるモデルを開発し、磁気嵐の強さについての予測も可能にしています。

衛星システムや通信網、電力網に依存した現代社会では、宇宙天気予報による早く、確度の高い予測が欠かせません。今回の太陽フレアでは、幸い大きな被害はなかったものの、予測よりも早く磁気の乱れが始まったりなど、まだまだ分かっていないことは多いのです。こうした地道な研究が、現代社会を支えているのです。

【関連情報】
NICT 宇宙天気情報センター
通常の1000倍の大型太陽フレアを観測 ~11年ぶり、地球への影響は9月8日午後の見込み~
宇宙天気予報の精度を上げる技術の開発 ~機械学習とビッグデータで、太陽フレアの発生予測を8割へアップ~
[プレスリリース]磁気嵐の予測に向けたコロナ質量放出シミュレーションを実現

 

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