必要な時に自分で運転してどこにでも行ける自家用車は便利ですが、困るのは「自分で運転ができなくなった時」。高齢化に伴う身体能力や認知能力の低下により、事故を起こしてしまうケースが増えています。警視庁などは運転に自信がなくなった高齢者の運転免許証の自主返納を推進しています。
しかし、都心部のように公共交通機関が充実していない地方部では、車は生活のための文字通り「足」です。免許証を返納した高齢者が代わりの移動手段が無い場合、日常の買い物もできなくなったり、外出意欲を失い健康を損なうなど別の問題が生じています。単に「危ないから取り上げる」のではなく、代替となる移動手段を確保することが大きな課題となります。
福島県伊達市では、2017年から、地域の高齢者を地域の助け合いで支える「共助社会」を目指し、地域通貨によりさまざまなサービスを提供する「共助社会構築推進事業」を行っています。一人暮らしの高齢者世帯が抱える日常生活の困りごとについて支援の要望を聞き、地域人材とマッチングし、支援の内容や支援時間を管理する実証実験を行っています。その中でも出てきたのが、車両による送迎支援のニーズでした。
効率的に送迎支援を提供するには、送迎して欲しい高齢者と、そのタイミングで自分の車を運転して送迎が出来る支援者をマッチングする必要があります。そこで伊達市では、「地域住民助け合いによる遊休車両を利用した乗合送迎サービスの実証実験」を伊達市月舘町糠田地域の住民を対象に、2018年2月から3月まで実施することになりました。
電話で依頼し、近くの運転手を探す
送迎を希望する利用者は、電話でコールセンターに送迎支援を申し込みます。コールセンターのオペレーターは、専用ウェブページで、送迎希望時間、乗車場所、目的地を入力します。あらかじめデータベース化された登録運転手の送迎可能時間と現在位置情報を元に所要時間を計算して、送迎可能な運転手のマッチングを行い、運転手のスマートフォンやタブレットに送迎依頼を自動送信します。こうした一連の実証実験を通して、住民の利便性向上を検証します。なお、今回の実証実験では、送迎の利用は無料、運転手への報酬も無償となりますが、伊達市では実験と並行して地域通貨や現金による支払いを可能とするような仕組みを検討していきます。

利便性と同時に重要なのが、安全性です。実証実験では、運転手の安全運転評価に、運転手の車両に位置情報や速度などのデータを収集する端末を取り付け、データを収集します。走行速度やアクセル・ブレーキの操作などにより、安全運転評価データを作成します。この評価データを、利用者が運転手を選択する際の指標や運営主体となる伊達市の運転手への教育に活用し、有効性を検証します。

デマンドタクシーの課題を解決できるか?
実証実験を行う伊達市月舘町糠田地域は、伊達市の中でも山間部地域にあたります。路線バスは国道349号線を走っていますが、バスの本数も1日に数本程度となっています。他に、通学時間帯に合わせて、マイクロバス型の乗り合いタクシーが運行しています。とはいえ、そもそも大多数の家からはバス停までが遠く、高齢者が外出するためには自宅からバス停までの足が必要なのが現状です。伊達市では、高齢者の自宅から市内の商業施設、病院、駅などに送迎する予約制のデマンドタクシー「まちなかタクシー」を提供しています。

しかし、2014年に伊達市が実施した調査によれば、デマンドタクシーの利用経験率は10.8%にとどまっています。利用しない理由としては、(自家用車の方が便利、家族が送迎してくれる、などを除くと)利用方法が分からない、目的地が福島など市外にある、予約が煩わしいといった意見が多く、乗り合い送迎サービスがこの点を解決できるかが注目されます。
伊達市は、今回の実証実験を元に、対象エリアの拡大やデマンドタクシーへの適用、病院や介護送迎への活用などを検討していきます。また、位置情報サービスを提供している富士通は、今後、利用者の位置情報や移動実績情報などの蓄積データを同社のAI技術で分析し、利用者の特性にあった移動需要の喚起や混雑緩和に活用していきます。
【参照情報】
・伊達市と富士通、遊休車両を有効活用した乗合送迎サービスの実証実験を開始
・霊山・月舘まちなかタクシー – 福島県伊達市ホームページ
・共助社会構築推進事業の進捗について(伊達市)
・伊達市民の外出に関するアンケート調査報告書(平成26年度)