雪山の安全を電波で守る ビーコンと位置情報を活用したサービスに期待

今年の冬は雪が多く、スキーやスノーボードが春先まで楽しめそうです。しかし、これから暖かくなるにつれ、怖いのが雪崩です。遭難者の捜索にビーコンやLoRaWANを活用する試みが進められています。

雪崩捜索に活用されてきたビーコン

雪崩の怖いところは、雪に埋まった人を目視で発見することが難しいことです。呼吸も苦しく雪に体温を奪われる環境では、声を出すのも難しいでしょう。そんな時でも、電波など出すものを身につけていれば、電波をキャッチして捜索範囲を絞り込んでいくことができます。

このようなアイデアで、遭難者の捜索に使用するデバイスは、「雪崩ビーコン」として既に商品化されています。もっとも古い雪崩ビーコンのアイデアは1940年頃まで遡りますが、実用化されたのは1960年代後半から1970年頃だと言われています。初期の製品は電波だけでなく、音を出すものや磁力を使うものなどがありました。1970年代前半には、スイス、イギリス、オーストリア、アメリカなどで製品が発売されています。

それまでの雪山登山では、隊員同士が細いロープで互いに身体を繋ぎ、雪崩に巻き込まれた時にはロープを手繰って埋もれた仲間を見つけるというのが一般的でしたが、発信器と受信機一体型ビーコンで生還率は2倍以上になったという調査レポートが1974年に発表されています。1986年に国際山岳救助連盟が475kHzの周波数を雪崩ビーコン要国際標準周波数として勧告したことで、当初はメーカーごとにバラバラだった利用周波数の統一などが進みました。

雪崩ビーコンの例 By Bodhisattwa (Own work) (CC BY-SA 4.0) , via Wikimedia Commons

万一の遭難に備え、雪山登山を行う人は雪山ビーコンを持ち歩くことが推奨されています。とはいえ、本格的な冬山登山の装備であればまだしも、年に数回スキー場のゲレンデでスキーやスノーボードを楽しむために、実売価格で3万円台から5万円台のものを持ち歩くというのも難しい話です。

痛ましい事故をきっかけに待ち合わせアプリを雪崩捜索に転用

人間の意識とは無関係に、雪山であれば雪崩はどこでも発生します。2017年3月、栃木県の那須温泉ファミリースキー場で発生した雪崩では、山岳部員の高校生7名と引率の教員1名、合計8名が巻き込まれ命を失いました。

この事故をきっかけに開発が進められているのが、LINE Botを利用して雪崩に埋まった人を捜索する「雪山Bot」です。IT企業のデザインエッグ代表 佐田幸宏氏、アナザーブレイン代表の久田智之氏らの共同開発によるもので、2017年12月に開催された「Mashup Awards 2017 for Pro」の優秀賞に選定されています。

元々のアイデアは、2017年3月にスキー場のリフト乗り場やレストランなどにLINE Beaconを置き、LINE グループのメンバーが近くを通ったらそのことをbotがグループチャットに通知することで、待ち合わせを支援するというものでした。寒いスキー場で手袋をはずしてスマホを操作しなくても、居場所を仲間に伝えることができます。

雪崩の事故をきっかけに、開発者らは、雪の中に埋めたスマホと雪の上の小型ビーコンを通信させる実験を行いました。2017年12月に行った実験では、深さ2mに埋めたスマホの電波を100m離れた地点で拾うことができたそうです。捜索隊が小型ビーコンを持ち歩くことで、雪に埋まったスマホの信号を拾い、LINEグループに通知できる可能性があります。

冷たい雪の中ではバッテリーの消耗は通常よりも激しいため、長時間の動作は難しいかもしれません。しかし、短時間であっても多くの人がインストールしているLINEを活用できれば、早期発見に繋がる確率を少しでも上げることができます。

LoRaWAN端末でスタッフの位置を把握

遭難者を効率的に捜索するためには、探す側も位置情報を互いに把握し、既に探した場所とまだ探せていない場所を的確に判断できる必要があります。マクニカネットワークスは、群馬スノーアライアンスと共同で、LoRaWANを使用したスタッフのリアルタイム位置情報把握の実証実験を開始しました。

ノルン水上スキー場内のパトロールスタッフやリフトのスタッフに、位置情報を取得できるLoRaWAN対応の小型端末を配備し、数分に一度程度GPSによる位置情報をサーバーに集約することで位置情報を把握します。

実証実験終了後には実験結果をとりまとめ、来シーズンにはゲレンデでの迷子の発見、遭難者やけが人の捜索、コースの混雑状況の表示駅からの送迎バスの位置情報のリアルタイム表示などの運用を行うことを想定しています。

登山向けシステムを応用した位置情報把握も

博報堂アイ・スタジオなどが提供するTrek Trackは、2018年1月から、新潟県かぐらスキー場のバックカントリー向けに、専用デバイスを貸し出してLoRaWANによる位置情報可視化サービスを提供しています。

LoRaWAN端末を持つスキーヤーの位置情報を可視化(報道発表資料より)

2017年8月から提供を開始した山岳地帯向けサービスを拡張しました。デバイスにはHELPボタンがついており、緊急時に押すことで、1時間以内に事務局から事前に登録した緊急連絡先に位置情報と共に伝達されます。

Trek Trackのアプリと端末(報道発表資料より)

位置情報の活用で、雪山でのスポーツがもっと安全に楽しめるようになるといいですね。

【参照情報】

雪崩ビーコン(WikiPedia)
スキー場の雪崩捜索支援 スマホ位置情報を受信(毎日新聞)
マクニカネットワークス、 LoRaWAN™を活用した見守り実証実験を開始
ゲレンデでの“見守り”の実証実験?? (ノルン水上スキー場-STAFF BLOG)
IoTデバイスで未来のアウトドアインフラを作るサービス 『TREK TRACK(トレック トラック)』 2018年1月11日(木)よりバックカントリーエリアでのサービス開始 -オリジナル山岳保険『The Day(ザ・デイ)』の提供も開始-