前々回の「雪山の安全を電波で守る ビーコンと位置情報を活用したサービスに期待」でご紹介した、山岳地帯で位置情報をリアルタイムに把握できるサービス「TREK TRACK」。2018年2月、北海道・ニセコモイワスキー場で、自動写真撮影サービスと位置情報可視化を活用したおもてなしサービス体験イベントが実施されました。
おさらい:TREK TRACKってどんなサービス?
TREK TRACKは、専用デバイスによって、携帯電話の圏外でも位置情報をリアルタイムに把握できるサービスです。デバイスがGPSで取得した位置情報を、山小屋などに設置したLPWAゲートウェイを通じて収集し、サーバーに集約します。LPWAは、通信速度が遅くても低消費電力で通信距離が長いのが特徴なので、少ない基地局数で広いエリアをカバーできます。サーバーに集約した位置情報はウェブサイトや専用アプリで確認できるので、家族や山岳管理者がリアルタイムに位置を把握できます。

デバイスには「HELP」ボタンがついており、緊急時に押すことでTREK TRACK事務局に緊急信号を送信できます。信号を確認した事務局では、1時間以内にあらかじめ登録された家族や知人などの緊急連絡先に連絡します。

2017年夏シーズンに山梨県の瑞牆山(みずがきやま)で登山者向けのサービスを提供。冬シーズンは、新潟県かぐらスキー場のバックカントリーエリア(スキー場管理区域外)向けのサービスを開始しました。他、ニセコモイワ(北海道)、ニセコグラン・ヒラフ(北海道)、ニセコアンヌプリ(北海道)、キロロリゾート(北海道)、白馬八方尾根、白馬岩岳の6カ所で実証実験を行っています。
スキーヤーごとに軌跡を可視化
2018年2月10日から3月11日まで実証実験が行われたニセコモイワ、ニセコアンヌプリ、ニセコグラン・ヒラフを含むニセコリゾートは、世界的に見ても珍しい、人里から近い場所でパウダースノーが楽しめるスキー場です。海外のスキーヤーやスノーボーダーも毎年数多く訪れ、最高の雪質を楽しんでいます。
実証実験では、スキー場を訪れるスキーヤーにTREK TRACKの端末を貸し出し、位置情報を記録しました。スマホアプリやウェブサイトで3D地図上に現在地を表示したり、自分が滑走した軌跡を後で3D地図上で確認することができます。SNSでシェアすることも可能です。位置情報を収集するLPWAゲートウェイは、これらの3スキー場と近くのニセコ五色温泉旅館の計4か所に設置しました。
実証実験期間中には、およそ500名ほどが実際に端末を持って、位置情報を記録しながら滑走を行いました。記録を見ると、人によって軌跡がかなり異なっていることが分かります。

ニセコリゾートは、ゲレンデ外に出て人の手が入らない自然を楽しむ、バックカントリースキーを楽しむスキーヤーが多いエリアです。バックカントリーでは、誰もまだ足跡を付けていない新雪を思う存分楽しむことができますが、ひとたび遭難が起きれば、捜索が大変困難になります。
もちろんそうした時にはTREK TRACKが威力を発揮するわけですが、平常時にもスキーヤーやスノーボーダーの軌跡を記録しておくことで、人が行きやすい場所をデータとして蓄積でき、遭難発生時の捜索や、平常時の情報提供に役立ちます。
スマホの前を通ると写真を撮ってくれる「capture」
実証実験期間中の2月23日から25日、博報堂アイ・スタジオとNTT東日本が開発した自動撮影システム「capture」の実証実験が行われました。capture は、専用アプリをインストールしたスマートフォンの前を人が通ると、写真を自動撮影するシステムです。撮影した写真はNTT東日本が提供するクラウドサービスにアップロードされ、来訪者はロッジに設置されたサイネージで閲覧できます。閲覧した写真は、自分のスマートフォンにダウンロードできます。

captureは機械学習により特殊な機器を使わず高速に人物を検出して撮影するのが特徴です。従来であれば滑走中の写真を撮影するためには専門のカメラマンが依頼を受けて撮影ポイントに赴く必要がありましたが、自動撮影で手軽に滑走中の写真を撮影し、入手できます。
今回の実証実験では、あらかじめスキーヤーに撮影ポイントを伝えておき、前を通った人の写真を撮影しました。希望者には撮影した写真をプリントして渡し、希望者はQRコードで自分のスマホにダウンロードできるようにしていました。ニセコモイワスキー場では、およそ300人のスキーヤーが実験に参加。多くの人が、その場で自分の写真をダウンロードしていたそうです。

実証実験を行った博報堂アイ・スタジオ TREK TRACK推進室室長の川崎 順平氏によれば、「こんな写真が買えるなら買って帰りたい」というお客様も多く、「写真販売はスキー場の新たな収益源になる可能性がある」と感じたそうです。多いスキー場では年間30万人ほどの来場客があるそうですから、決して小さな額ではありません。
ちなみに、利用者が増えたら自分の写真を探すのが大変なのでは?と聞いてみたところ、今回は実証実験だったのでそこまでの作りこみはしていなかったが、ゆくゆくはタッチパネルを利用して撮影ポイントと時間帯で検索して写真を探せるようなインターフェイスを考えているとのことでした。「顔認証で自分の写真が検索できたら面白そうですよね」と言ってみたら、「滑っている時はゴーグルやヘッドマスクがあるので、画像認識を使うとしたらウェアの画像を基にした近似検索ではないでしょうか」とのこと。それは確かにそうですね。
スキー場の場外に出ていくお客様を撮影しておくことで、万一の時の安全管理に使えるというアイデアもあるそうです。無人で撮影できるので、ソーラーパネルと蓄電池と組み合わせれば、バックカントリーエリアにもある程度の期間無人で動作させられる撮影ポイントが設けられるのではないでしょうか。スキーヤーにも撮影ポイントを知らせておけば、自分が滑っている姿を撮影したい人はその場所を通ることになります。スキーヤーを楽しませながら、同時に危険な場所を避けるようにさりげなく誘導する効果も期待できるかもしれないと感じました。
位置情報+写真で新たな可能性
今回の実験では、captureとTREK TRACKは別々のシステムとして提供されてましたが、将来は連動したサービスも展開していきたいとのことでした。設置した撮影ポイントをTREK TRACKアプリのマップ上に表示したり、TREK TRACKの軌跡と連動して撮影した写真を表示したりできると、楽しそうです。
captureの撮影ポイントとジオフェンスを組み合わせたサービスも面白いかもしれません。撮影ポイントから数百メートル以内に入ったら「まもなく撮影ポイント」なんてバイブレーションで知らせてもらえると、ポーズも決めやすくなりそうです。
来シーズンの予定をうかがったところ、TREK TRACKは商用サービス化に向け、北海道、岩手県、白馬エリアなどのスキー場運営母体企業などと協力に向け交渉中だとのことです。また、Captureについては、既にインフラや落石監視、バックカントリーでの見守りなどで引き合いが来ており、これから具体的なことを詰めながら商用サービスを目指すとのことでした。
「雪山+位置情報」というと、遭難安全管理のためのインフラとしてとらえられがちですが、それに写真を付加することで、スキーヤーには新たな楽しみ方として、スキー場には新たな収益源として活用できるサービスになると感じました。
写真提供:TREK TRACK
【参照情報】
・TREK TRACK:山の中での人の位置情報をリアルタイムに取得。技術でアウトドアに革新を。
・自動撮影と位置情報の可視化で『インスタ映え』をお手伝い! ~スノーリゾートにおける、新たなおもてなしサービスの提供に向けたトライアル~(報道発表資料)
・IoTデバイスで未来のアウトドアインフラを作るサービス『TREK TRACK(トレック トラック)』2018年1月11日(木)よりバックカントリーエリアでのサービス開始(報道発表資料)
・長距離無線通信技術 [LPWA] をユーザー向けに初導入*¹ IoTデバイスを活用したアウトドアインフラ 『TREK TRACK(トレック トラック)』2017年9月1日(金)よりサービス開始 – 第一弾として奥秩父瑞牆山(みずがきやま)にて導入 サービス予約の受付を8月18日(金)より開始、8月20日(日)無料体験イベントを実施 (報道発表資料)
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