高精度化が進む位置情報サービス -取得デバイスを通して見た最近の動向

位置情報サービスを成り立たせている、様々なデバイスとその特徴について見ていきたいと思います。

それぞれのデバイスに特徴や強みがあり、またサービスによっても活用の形が異なります。位置情報サービスで取得できるデータの特徴も、デバイスの違いによって異なるため、その違いをよく認識した上でサービスを設計することが重要になります。

例えば、基地局との交信をもとに位置情報をビッグデータとして、災害時の避難経路やマーケティングなどに応用しているNTTドコモのモバイル空間統計は、全国のドコモのサービスエリアが、統計対象エリアです。365日24時間の人口分布を1時間ごとに把握できるというもので早くから実用化されていますが、このような大量のスマホ端末から人の大きな塊の動きを捉える基地局測位とは異なり、最近は広告配信などを想定して、より精密度の高い細かなエリアでの測位分析も求められるようになってきました。

このために多用されている主な位置情報取得デバイスはGPS、Wi-Fi、Beaconです。「39Geopla」では、このすべてに渡って位置情報を取得できるSDKをご提供していますが、この記事では39Geoplaに限らず、取得手段それぞれの特徴や最近の動向について見ていくことにします。

【GPS-最もポピュラーな位置情報取得手段】

言うまでもなく、GPSはユーザーにとって最も馴染みのあるポピュラーな手段であり、人工衛星を使って現在地情報を測定します。スマホで地図アプリを開き目的地までの経路を調べるというのは、一般のユーザーにとっても日常的に使用する体験でしょう。
その他にも「店舗の周囲500メートル以内にいる自社アプリユーザーに向けてクーポンを配信する」とか、「駅を降りると周辺にあるスーパーのお買い得情報を配信する」などのサービスにはGPSが向いています。端末の緯度経度情報のみであれば、、アプリに特別なライブラリーを導入しなくても標準で取得できるので容易に導入しやすいこともメリットです。


スマホでGPSを許可しているユーザーの数は、他の取得手段に比べて格段に多いのも強みです。

※2018年にLINEが行ったリサーチではGPSに関して「設定や全てのアプリで常時ON」にしている人は16%、「特定のアプリで常時ON」にしている人が30%、「必要な時にON」にする人は35%、「ほとんどONにすることはない」人は13%でした。

一方で、GPSの弱点としては、精度の問題があります。電波は宇宙から飛んで来るため、ビルの乱立する都心部や木々の立ち並ぶ山林、天候などにより、位置を正確に取得できない場合があります。こうした理由から、GPSで判断できる精度は、場所によって異なりますが、現行のスマホではせいぜい数十mから100m単位といったところです。(タクシーなどに搭載されている業務用のカーナビでは既に数m単位の精度とされているものもあります)


この他、電波の発信時刻と受信時刻の差異を利用するという機能のため、もしも端末に誤った時刻が設定されていると精度に悪影響を及ぼす場合があります。
カーナビやスマホなどの「GPSレシーバー」は電波の発信時刻と受信時刻の差から、衛星とレシーバーの距離を算出しています。複数の衛星の位置とGPSレシーバーからの距離がわかれば、レシーバーの位置が計算できますが、GPSレシーバーが使用している時計は、GPS衛星に搭載されている原子時計(数十万年に1秒程度の誤差)ほど高精度ではないので、もし電波の受信時刻が1 マイクロ秒(100万分の1秒)ずれるだけで距離の誤差は300mにもなってしまいます。そのために、時間の精度が非常に重要になってくるわけです。


また、GPSのもう一つの弱点は屋内や地下など、衛星の電波の届きにくい場所では正確に位置を取得できない点です。建物のフロアが重なっているところでは、どのフロアに端末がいるのか判断するのも困難です。このあたりは後述するWi-Fiや、Beaconといった方法がはるかに有利です。

【「みちびき」に期待されるGPS精度の改善】

GPSの精度改善に大きな期待が寄せられているのが、「準天頂衛星システム・みちびき」です。現在4機が打ち上げられており、2023年度をめどに7機体制とする計画ですが、特徴は、測位できる位置精度の格段の高さです。使い方によっては、わずか数cmの誤差で位置を特定できるとされていますが、当初は業務用カーナビや自動車の自動運転システムなどから導入されると思われ、スマホでは機種やOSによって、みちびき対応の時期は異なるとされています。

【Wi-Fi -屋内や地下でも有効・店舗や駅を特定しやすい位置情報取得手段】

GPSに比べてWi-Fiの利点は、まず地下や屋内で強いこと。地下街や駅、デパートや大型ショッピングモールなどで威力を発揮します。Wi-Fiのアクセスポイントが設置されている場所と、ルーターのSSID(Service Set Identifier)、BSSID(Basic Service Set Identifier)の値がわかれば、ネットに接続するためだけではなく、位置情報サービスのポイントとして使うことができます。精度は一般的には電波の届く20m程度の範囲とされています。(建物や車などの反射によってもっと遠くまで電波が届いてしまう場合もあります)
「駅の東口で降りるユーザーだけに情報を届けたい」とか、「お店の3Fフロアだけに限定して時間が来たらお客にpushで情報を配信したい」などのニーズは、GPSよりもむしろWi-Fiを使うことで実現できます。


2020年の東京オリンピックを控えて、特に東京などの大都市ではフリーWi-Fiの設置がかなり細かいメッシュで進行しています。このことからWi-Fiは、網羅性は高いが誤差が大きく地上屋外での活用に限られるGPSを、補完する役割を果たすことが期待されます。また緯度経度のみで位置を測定するGPSと異なり、Wi-Fiの場合にはアクセスポイントの機器がどのような業種の、どのような店舗や建物に設置されているか、サービス事業者が詳細に把握していますので、それぞれの店舗の滞在時間等を測定することも可能になります。


例えばソフトバンクの出資するシナラシステムズジャパン株式会社では、ソフトバンクの持つWi-Fiポイントへのアクセス履歴情報を匿名化して、広告配信に応用していますし、39Geoplaでは全国およそ15万箇所に設置されているdocomoWi-Fiのアクセスポイントを、積極的に位置情報サービスに活用しています。また、無線LANの信号強度を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)を細かく測定することにより、複数のWi-Fiポイントからの距離を推測してスマホの正確な位置を推定することも研究されています。Wi-Fiの電波をどの程度強く受信しているかを知ることによって、買い物客が、すでにお店を出てしまったのか、それともまだ売り場内にとどまっているかという細かな分析が可能になるわけです。

MMD研究所の2017年の調査によれば、公衆無線LANの利用率は69.4%で、10代が84.8%と最も多く、お店やホテルなどの提供する公衆無線LAN利用率は87.8%、キャリアやプロバイダ提供は24.0%となっています。
位置情報取得の手段としてのWi-Fiは一般的にはあまり意識されていませんが、ユーザーサービスの観点からコンビニや公共施設、ホテルなどへのフリーWi-Fiの設置は今後もますます進んでいくことが予想されますので、今後はWi-Fiも位置情報取得の重要なファクターになる可能性があります。

【Beacon-もっとも精度の高い情報を取得できる位置情報取得手段】

Beaconは微弱なBluetoothの電波を発信し、付近のスマホがそれに反応して情報配信サーバと通信することにより、その地点に適した情報を配信することを可能にする機器です。先に見てきたGPSやWi-Fiに比べて格段に優れているのは、非常に細かなメッシュで端末の位置を特定できることであり、近接型の中には数十センチメートルの距離まで近づいて初めて反応する機能を有するものもあります。また最大では数百メートルの距離まで電波を飛ばすこともできます。
顧客の場所を正確に掴むことができるため、ピンポイントのpush広告やメッセージなどを配信するのに適していますが、難点はエリアをカバーするために多くのビーコン機器を必要とすることで、設置運用やメンテナンス、電力の供給に関して、どの企業でも苦労をしてきました。乾電池型のものが一般的ですが、1-2年に1回は電池交換の必要があり、インフラとして町中に大量に設置した場合、この作業だけでもコストと神経を使うものです。
最近では、このような乾電池型以外に、直接電源に接続することで半永久的に電池交換の手間を省くような設置方法も多くなっています。例えば、デジタルサイネージにビーコンを設置することでユーザーのスマホへの広告配信連動を狙う試みや、自動販売機の中に設置することで飲料を購入した顧客にデジタルクーポンを配信するなどのサービスも見られるようになってきました。

株式会社unerryは、約56万個(2018年3月現在)のビーコンが登録されている、日本最大級のビーコンネットワークを中心とした、オフライン行動データプラットフォーム「Beacon Bank」を運営していますが、このネットワークを生かして大手広告代理店の電通と連携してピンポイントの広告配信を行うなどの動きが見られます。独自にビーコンネットワークを運用するよりも、運用に特化しているこうしたビーコンネットワークに相乗りすることで、ビーコンのメリットである、きめ細かな情報配信を効率良く実現しようという試みは今後も広がっていくでしょう。

【今後の位置情報取得手段】

スマホによる位置測位が基地局をベースにした、ビッグデータの解析中心であった時代に比べて、大型ショッピングモール内の人の動きや、駅前ロータリーの商店へのアクセス経路、さらに地下街店舗のレジ周りの滞在時間、そしてきめ細やかなスポット単位の広告配信など、よりきめ細かくユーザーの位置情報や動線を知ることが求められるようになってきています。

その流れのなかで、ネットサービスを提供する手段として街の各所に設置が進んできたWi-Fiのアクセスポイント、そして既存の機器の中に埋め込まれる形で静かに広がっているビーコンネットワークが、位置情報サービスのための重要手段となる可能性を持っているのは大変に興味深いことだと思います。今後はGPS自体の精度も格段に上がっていく可能性はありますが、地下や屋内で衛星からの電波を受信するのは簡単なことではありませんから、その意味でもWi-FiやBeaconは今後も重要な手段であり続けるでしょう。

【参考リンク】

新聞やチラシの購読率は? BluetoothやGPSのON率は? LINEリサーチから見えてきた スマホ市場の変化について/モバイルマーケティング研究所
https://moduleapps.com/mobile-marketing/13372rpt/

ケタ違いの精度、日本版GPS「みちびき」の実力
https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/17/111500524/121100001/

みちびき対応製品リスト
http://qzss.go.jp/usage/products/list.html

準天頂衛星「みちびき」で、スマホの位置測位はどれだけ精度が高くなる?
https://39geopla.net/blog/?p=1932

公衆無線LAN利用率69.4%、10代利用者が最も多く84.8%、提供元不明の公衆無線LANの利用経験17.5%、「利用への抵抗ない」55.5%/MMD研究所調査
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1685.html

「Beacon Bank」を運営する株式会社unerryが電通と資本業務提携
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000016301.html

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