位置情報の活用事例として有用性が期待されているのが「見守り」です。2016年に神戸市とNTTドコモがBLEタグを活用した子供の見守りの実証実験に取り組むなど、自治体も参画した数多くの取組が行われています。今回は見守りの中でも「高齢者の見守り」に注目してみましょう。
【子供と高齢者の大きな違い】
子供の見守りと高齢者の見守り、機能としては「位置情報が分かるものを身につけさせ、その位置情報を何らかの方法で取得して第三者が追跡できるようにする」ということで、大差ないように見えます。しかし、サービス提供者に聞くと、高齢者ならではの配慮が必要な点があるのだそうです。
大きな違いは、「出かける時にわざわざ端末を持って出かけてくれると考えてはいけない」ということです。基本的に保護者が管理して持たせる子供向けの見守り端末とは異なり、高齢者の場合は持ち物の管理者が状況により異なります。
健康な人であれば自分の持ち物や身につけるものは、自分で管理していますが、今まで持ち歩く習慣がなかった持ち物は、どこかに置き忘れたり、つい持つのを忘れて出かけてしまうことも多いでしょう。また、認知症などで持ち物の管理を介護者がしている場合であっても、徘徊など見守りシステムが本当に必要になる状況で、見守り端末を持って出かけてくれることはとても期待できません。わざわざ端末を持つのではなく、普段身につけているものに「自然に」組み込まれていることが求められるのです。
その点で画期的だったのが、2015年5月に開催された「第4回 IoT/M2M展」にNTTドコモが発表した「見守りシューズ」です。靴であれば外出する時には必ず履きますし、万一靴を履き忘れて外出してしまえば、周囲の人が異常に気づいて止めてくれます。
「見守りシューズ」は、靴の中敷きの下にGPS端末を埋め込んで利用します。ドコモの「かんたん位置情報サービス」を利用してパソコンやスマートフォンから位置を検索できます。出展後、数社が製品化しています。
【悩ましい充電問題を解決できるBLE】
見守り端末でもう一つの大きな問題が充電です。「見守りシューズ」で使用しているドコモの小型GPS端末は、1週間に1回程度の充電が必要で、靴の中から端末を取り出す必要があります。難しいことではありませんが、なるべくなら充電は少なく済ませたいものです。
ひとつの解決策は、低消費電力で長時間のバッテリー駆動が可能なBLEタグの活用です。最初に紹介したドコモと神戸市の実証実験では、見守り端末としてBLEタグを持たせました。定点に設置した受信機や専用アプリをインストールした実験協力者のスマートフォンを検知ポイントとして利用し、その近くをBLEタグが通った時に自分の位置を通知することでタグの位置をサーバーに記録し、精度の高い見守りを実現しました。

同じ仕組みを靴の中に入れられれば、充電がほぼ不要な見守りシューズが実現できそうですが、ここでもう一つ問題になるのが位置情報の取得方法です。神戸市の実証実験では、BLEの通信距離が数十m程度と短いことを利用して、検知ポイントの位置をBLEタグの位置とみなして記録しています。この仕組みは人口密度が高く、検知ポイントを設置できる場所が多い都市部であればとても有用ですが、人口の少ない地方部では検知ポイントがまばらになってしまうため、適切に位置情報を取得するのは難しくなります。そのような場所ではやはりGPSを使いたいところです。
【見守りシステムにおけるLPWAの可能性】
ここで役立ちそうなのが、LPWA(Low Power、Wide Area)と呼ばれる、新しい無線通信規格です。その名の通り、低消費電力で数kmから数十kmという長距離の伝送が可能で、IoT向けの通信規格として注目されています。最近ニュースでもよく聞くのが、LPWAの規格の一つであるLoRaWANです。
LoRaWANは900MHz帯のアンライセンスバンドを使う通信規格なので、直接インターネットに接続することはできません。データをサーバーに送るためには、携帯電話網や固定網に接続されたゲートウェイを経由する必要があります。NTTドコモは、LoRaWANのトライアル環境を法人向けに提供する実証実験を2017年4月から開始することを発表しました。他にも複数の通信事業者がLoRaWANをはじめとするLPWAネットワーク構築への取り組みを発表しています。

GPSを利用した見守り端末では、衛星から取得した位置情報を、サーバーに伝達するための通信手段が必要です。その際、携帯電話網を使うよりは、LPWAを使う方が、見守り端末のバッテリー寿命は長くなります。2017年2月に発表された「みまもーら」というリストバンド型見守り端末は、LoRaWANを使用しており、「10年間電池無交換」をうたっています(※実際のバッテリー寿命はGPSの起動回数によります)。
この仕組みをそのまま靴の中に入れれば、「見守りシューズ」の充電問題も解決できそうです。問題は、現時点でLoRaWAN網は携帯電話網のように「どこでもつながる」ネットワークではなく、LoRaWANゲートウェイを自分で設置する必要があることです。
【LoRaWANネットワークのシェアリングモデルが日本を覆う日】
もちろんゲートウェイが無いわけではなく、ドコモのMVNOであるソラコムはLoRaWANをLTE網を経由してインターネットに接続する「SORACOM Air for LoRaWAN」を2017年1月から商用サービスとして提供しています。ユニークなのは、ゲートウェイの提供形態として、自社所有のゲートウェイを設置して利用する「購入モデル」と、誰にでもLoRaWANが利用できるよう公開することを条件に、ソラコム所有のゲートウェイを設置することで大幅に料金が安くなる「共有サービスモデル」の2つのモデルを用意していることです。同社は共有サービスモデルを「個人の開発者や少数のLoRaデバイスを試作/検証したい企業などを支援する」ためのものとして位置付けています。

このような考え方でLoRaWAN対応の見守り端末を利用している個人宅のゲートウェイを他の端末でも共有することができれば、より安く、広範囲に対応した見守りサービスの提供が可能になります。
LoRaWANをはじめとしたLPWAのユースケースとして有力視されているのが、農業、防災、橋や道路などのインフラ監視などのセンサー向けのデバイスへの活用です。こうしたアプリケーションで使用するLPWAゲートウェイも共用できれば、地方での見守りサービスの範囲がさらに広がりそうです。また、登山道沿いやスキー場に設置すれば、登山者やスキーヤーの捜索にも役立つでしょう。もちろんゲートウェイ自体も電池駆動で長期間電池交換不要で動く必要がありますが、ドコモではそうした実験にも取り組んでいます。
ということで、LPWAのゲートウェイはここ数年の間に、都市部だけではなく山間部や島しょ部など現在携帯電話が届いていないような場所でも使える見守り網としての利用が広がるのではないかと予想しています。39Geoplaのジオポイントとして各地に設置されたLPWAゲートウェイも活用できるようになると、さらにいろいろなことができるようになるかもしれませんね。
【参照情報】
うららかGPSウォーク(株式会社トレイル)
http://www.uraraca.net/rehabili-shoes/gps-walk.html
神戸市ドコモ見守りサービス(実証事業)の開始 -41社の事業者の協力を得て見守りネットワークを形成-(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2016/09/15_00.html
LPWA通信を活用したIoTサービスを実現する「ドコモIoT/LPWA実証実験環境」を提供(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/notice/2017/03/13_01.html
株式会社みまもーら http://www.mimamora.com/
IoT 通信プラットフォーム「SORACOM」のLoRaWAN™ 利用においてLoRa ゲートウェイを「共有」する新サービスモデルを開始 LPWA のシェアリングエコノミーを目指す(株式会社ソラコム)
https://soracom.jp/press/2017020702/
様々なIoTサービスに利用可能なLPWA対応IoTゲートウェイ機器の実証実験を開始(NTTドコモ)
https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2016/11/15_00.html
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