新しいお祭りからふるさと納税まで?聖地巡礼が生む地域の魅力

アニメの舞台となった場所を巡る「聖地巡礼」は観光学の中でも「コンテンツツーリズム」という新たなパラダイムを生み、地域振興の切り札として注目されています。ヒット作品の聖地となった地域では、案内地図の整備やイベントの実施、土産物の開発など、巡礼者に向けたさまざまな「おもてなし」をしています。今回は、「聖地巡礼」の歴史と、最近の動向をご紹介します。

【そもそもは宗教的な行事だった「聖地巡礼」】

言うまでもなく本来の「聖地巡礼」は、宗教上の聖地、霊場、本山などを巡ることで信仰を深める、宗教的な行事です。イスラム教のメッカ巡礼、キリスト教のエルサレム巡礼、日本でいえば四国八十八カ所遍路などが有名です。

そもそも聖地とは、宗教的な伝承と結びついて神聖化されている場所や、神、聖者、王、英雄などにゆかりのある聖域などの「特別な場所」を指します。ここから転じて、宗教に限らずさまざまなことがらにおける「特別に重要な場所」を指すようになりました。

アニメにおける「聖地」は、もともとその作家にゆかりのある場所を指すことが多かったようです。有名なところでは、鳥取県境港市の「水木しげるロード」や兵庫県宝塚市の「手塚治虫記念館」は、作家の生誕地で、今でも観光地として多くの人が訪れています。

【はじまりはセーラームーン】

奈良県立大学・岡本健准教授が執筆した論文「アニメ聖地巡礼の誕生と展開」によれば、アニメ作品の舞台となった場所をめぐることを「聖地巡礼」と呼ぶようになったのは1990年代だそうです。その先駆けは1992年「美少女戦士セーラームーン」だったそうで(※)、舞台のひとつとなった東京都港区麻布十番の氷川神社(作品中では火川神社)には、当時多くのファンが押し掛けました。

※論文中では、その前にも、OVA「究極超人あ~る」に登場したJR飯田線や、岡山県を舞台としたアニメ「天地無用!」で、ファンによる聖地巡礼的行為が行われていたとも紹介されています。

その後、2002年から2003年にかけてWOWOWで放送された「おねがい☆ティーチャー」「おねがい☆ツインズ」で、舞台となった木崎湖や JR大糸線など周辺地域をファンが訪れる様子が地元の新聞記事に掲載され、アニメファンの間で使われていた「聖地巡礼」という言葉が一般の人にも知られるようになってきました。

【アニメが街を変える事例も】

ブレイクしたのは2007年4月から9月に放送された「らき☆すた」です。主人公の双子姉妹が住む主人公のうち双子の姉妹が住む「鷹宮神社」のモデルとされている埼玉県鷲宮町(当時)の鷲宮神社は、2008年正月三が日の初もうで参拝客が前年の13万人から30万人と2倍以上に増えました。地元でもキャラが描かれたみこしを作ったり、当時の鷲宮町が「特別住民票」を発行したりと、地域ぐるみで盛り上げました。

聖地巡礼が街に新しい伝統を生む事例も出てきました。2011年の作品「花咲くいろは」の湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉のモデルとなった石川県金沢市の湯桶温泉では、アニメのクライマックスである架空の祭り「ぼんぼり祭り」を、2012年から実際に「湯桶ぼんぼり祭り」として開催。今や、アニメのファンだけではなく地域住民や一般の観光客も集まるお祭りとして定着しています。

【ARで願いをかなえる巡礼者】

ファンにとっての聖地巡礼の楽しさは、物語の舞台となった地を訪れることで、自分の好きなキャラクターを身近に感じ、自分もその世界の一員となった気分になれることです。そこで重要な役割を果たすのが「写真」です。SNSとスマホの普及で、訪れた場所の写真をリアルタイムにシェアする巡礼者も増えました。それでもできることなら、風景だけでなく、アニメに登場するキャラクターが現実にその場面にいるところをこの目で見たい、自分も一緒に写真に写りたい…そんな願いをかなえるのがAR(拡張現実)です。

スマホアプリ「舞台めぐり」は、「行けるアニメ」というキャッチコピーの通り、アニメのシーンとして登場した場所が「チェックポイント」として地図上に表示され、その場所でスマホをかざすとアニメのキャラクターが登場します。表示されるARコンテンツはアニメの原画を元にしているので、角度や大きさを調整することで、アニメのシーンを完全再現することも可能ですし、自撮りで、一緒に写真を撮ることも可能です。作品によってはQRコードを併用してキャラクターの声が聞けたりするものもあります。

「らき☆すた」の他、「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」(茨城県大洗町)、「orange」(長野県松本市)、「この世界の片隅に」(広島県呉市)など、話題になったアニメ作品の舞台が多数紹介されています。チェックポイント周辺のお店の情報や、イベント情報も提供されており、まさに聖地巡礼を楽しむためのアプリです。

聖地巡礼を利用して「ふるさと納税」の返礼品コンテンツを作ってしまった自治体もあります。ガルパンの舞台である茨城県大洗町は、「“行ける”ふるさと納税」として、街なかオリエンテーリング「ガールズ&パンツァーうぉーく!(以下:ガルパンうぉーく!)」を2016年12月から提供しています(2017年2月からチケット制で一般ユーザーも楽しめるようになりました)。

【正確な位置情報とナビゲーションが肝に】

聖地巡礼で重要になるのが位置情報です。現地を訪れるファンのほとんどは地元の地理には明るくないので、分かりやすく正確なナビゲーションがなくては現地にたどり着くのが難しくなります。「舞台めぐり」では、GPSとWi-Fi測位を使って、チェックポイントに接近するとプッシュ通知で知らせてくれるので、ポイントを見逃すことがありません。

また、ナビゲーションよりもシビアな位置情報が要求されるのが、AR表示です。ファンの中には「キャラクターの表示位置がすこしでもずれてしまうと、せっかくアニメの世界に入り込んでいたのが一気に現実に引き戻される」という人もいます。ビーコンを利用して精密な位置情報が取れると、聖地巡礼がより楽しくなるでしょう。

「しらべぇ」編集部によると、聖地巡礼の経験者は12.6%(全国20〜60代の男女1684名を対象にした調査)。アニメ・漫画ファンだけではなく一般の人を対象にした調査の結果だそうですから、案外多いと思いませんか?「ガルパンうぉーく!」を企画した大洗町まちづくり推進課では、企画の意図を「モノを買うだけでなく、大洗町を実際に訪れて楽しむことで第2のふるさととしてもらいたい」としています。暖かく気持ちの良い季節、好きなアニメの聖地巡礼をきっかけに、見知らぬ街の新しい魅力を探しに出かけてみるのもいいかもしれませんね。

 

【参考リンク】

アニメ聖地巡礼の誕生と展開 (岡本健、2009)
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/38112/6/chapter02.pdf

第六回湯涌ぼんぼり祭り(2016年10月)
http://yuwaku.gr.jp/bonbori2016/

「行けるアニメ」舞台めぐり
https://www.butaimeguri.com/#/

AR・GPS・QRコードを活用してアニメの聖地巡礼を楽しむ“行ける”ふるさと納税「ガールズ&パンツァーうぉーく!」体験会レポート
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000263.000000353.html

[報告] 準天頂衛星システム講演会「みちびきGO」(準天頂衛星システム:QZSS公式サイト)
http://qzss.go.jp/events/g-expo2016_161214.html

いまや「町おこし」に必須!オタクに愛される「聖地巡礼」の楽しさとは? (しらべぇ)
http://sirabee.com/2015/05/21/31831/

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