進化した電源で、ビーコンはもっと自由になれる

スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスで、地味だけど大変重要なのが「電源」の問題。薄型軽量化が進むスマートフォンですが、バッテリーが切れてしまえば何もできません。スマートフォンのバッテリーの大容量化は進んでいるものの、同時に画面も大型化して消費電力もやはり大きくなっています。ますますスマホへの依存度が高まっている昨今、一瞬たりともバッテリー切れを起こさないようモバイルバッテリーを持ち歩く人は珍しくないし、いざという時のために充電ができる飲食店の場所をいくつか押さえている人も多いのではないでしょうか。

ビーコンの電池交換は大変な作業

電源を必要とするのはスマートフォンだけではありません。通信相手となるWi-Fiスポットやビーコンも、電源は必要です。コンセントの近くに設置するなら問題なくても、電波状況やビーコンを設定したい位置によっては、簡単に電源がとれないケースは少なくありません。

特にビーコンは、設置場所に近づいた時に電波を受信できるように設定することで、きめ細かく位置を特定できることが特徴ですから、電源の位置に合わせて設置場所を決めるのでは利点を損なうことになります。設置場所が常に変わらないのであれば、設置時に電源工事も実施するという手はありますが、たとえば店舗内の棚の位置に合わせてビーコンを設置する場合や、イベント会場の設営に合わせてビーコンを設置する場合など、どうしても電源に近づけることが難しい場合もあります。

そんな時にはやはりどうしても電池もしくはバッテリーによる駆動が必要になります。すると次に問題になるのが「切れた時にどうするのか」問題です。電池であれば交換が必要ですし、バッテリーであれば交換もしくは充電が必要です。

いずれにしても問題になるのは、ビーコンを置きっぱなしで放置しておけないということです。電池を交換したり、充電のためにケーブルをさす頻度があまりにも多いようでは使い物にならないということになります。数が増えればなおさらです。

距離・速度・間隔に依存する駆動時間

バッテリー駆動時間を長持ちさせるには、バッテリーそのものを大きくする方法と、消費電力を小さくする方法があります。バッテリーの容量と大きさ・重さはトレードオフになります。では、ビーコンの消費電力を減らすにはどうすればよいのでしょうか。

一般に無線機器は送信出力が大きいほど、また通信間隔が短いほど、消費電力は大きくなります。送信出力は到達距離と通信速度に影響し、到達距離が長いほど、また通信速度が速いほど、消費電力は大きくなります。

つまり消費電力を減らすことだけ考えるのであれば、短い距離を低速で、通信間隔をあけて、つまり通信回数を減らせばよいことになります。とはいえ、ビーコンの役割を考えれば、やみくもに減らせばよいというわけにもいきません。

iBeaconで採用されたBLEで道が開けた

そのあたりのバランスをとった通信規格がBLE(Bluetooth Low Energy)です。2010年には発表されていたのですが、2014年にAppleが発表したiBeaconの通信規格として採用したことで、一気にビーコンの標準通信規格となりました。少し脱線しますが、BLE登場の背景について説明します。

Bluetoothといえば携帯電話とヘッドセットの無線接続に使われたことで普及しましたが、元々はセンサーネットワーク用の近距離無線規格として開発されたものです。用途を考えると当然低消費電力が求められましたが、当初の規格は期待されたほど省電力ではなく、あまり普及しませんでした。

そのため、まずは通信速度を上げる方向で規格がバージョンアップされ、Bluetooth 2.0では3Mbpsで通信が可能になりました。さらにBluetooth 2.1ではペアリング手順が簡略化され、またSniff Subratingという省電力技術(通信間隔の長い周辺機器の消費電力を抑える)が導入されたことで、パソコンや携帯電話の周辺機器を無線で接続する規格として広まったのです。

その後発表されたBluetooth 3.0は、最大転送速度24Mbpsとかなりの速度が出るようになりましたが、その分電力は消費するようになったため、市場には受け入れられませんでした(省電力じゃなければ無線LANでいい、という判断だったのでしょう)。

そこで次のバージョンになるBluetooth 4.0では、フィンランドのNokiaが開発したWebreeという省電力無線規格を取り入れ、低速・低消費電力の規格に変わりました。いわば、原点に戻ったともいえます。本来Bluetooth 4.0以上に組み込まれたWebreeを元にした通信方式を指すのですが、今はBluetooth 4.0以上のことをBLEと呼ぶこともあります。

iBeaconが課した100ミリ秒の壁

さて、iBeacon以前にも、電池式のBluetoothビーコンは存在していました。ボタン電池1つで2年は電池交換不要をうたっているような製品もありましたが、その多くは送信間隔が600~700ミリ秒と長めに設定されていました。一方で、iBeaconは、要件として送信間隔100ミリ秒を求めていました。

送信間隔が600ミリ秒と送信間隔100ミリ秒では、単純に送信回数が6倍ですから、消費電力も6倍になると考えられます。すると、2年持つと思っていた電池が4か月程度で切れてしまうことになります。実際、iOSのiBeacon対応からしばらくは、iBeacon対応をうたいながら、電池が想定以上に早く切れる製品も多く、iBeacon対応ビーコンの購入時には注意が必要でした。

その後メーカーもチップや回路、ファームウェアの改良により、今市販されているiBeacon対応ビーコンの多くは、ボタン電池1個で半年から2年程度使えるようになっています。

使いながら充電する太陽電池つきビーコン

さて話を戻すと、バッテリーの駆動時間を延ばすための2つの方法と併用して威力を発揮するのが、太陽電池などの発電手段をバッテリーに接続することです。消費電力と発電量が釣り合えば、計算上は充電不要で動き続けるビーコンができることになります(実際にはバッテリーそのものの劣化による寿命が来たら交換する必要がありますが)。

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などは、ソーラーパネルと蓄電池を内蔵し、24時間無給電のメンテナンスフリーで動作するBluetoothビーコン「クリーンビーコン」を試作しています。電波の届く範囲は10~30メートル以内で、2016年秋には奈良・東大寺の境内で外国人観光客向けに観光ポイント別に観光情報を配信する実証実験を行いました。CEATEC2017の展示ブースで聞いたところ、既に技術的には完成しているのでなるべく早い商用化を目指したいとのことでした。大きさは5cm角程度と大変小さく、壁に貼り付けて使うこともできるので、設置場を選びませんし、運用の手間を考えずに多数のビーコンを配置することができます。

CEATEC2017会場で展示されていたcleanビーコン

大日本印刷のDNPソーラー電池式Bluetoothビーコンは、照明の近くに設置することで発電し、ビーコンとして利用できます。空港の保安検査場に近づくと運行情報を配信するシステムの採用事例があります。

固定の電源が不要になると、シガーソケットなどを占拠することなく車両内に後付けで取り付けることも可能です。株式会社テクノビーコンの薄型ソーラービーコンは、帝都交通グループのタクシー車内に搭載されています。訪日外国人向けのコミュニケーション支援アプリ「指さし会話」を利用している訪日外国人がタクシーに乗車するとプッシュ通知が送信され、タクシー内で使用するフレーズを表示します。中国語、英語、台湾語、韓国語、タイ語に対応しています。

また、富士通のバッテリーレス・フレキシブルビーコンは、太陽電池で駆動可能なシリコンベースのシートに導電性のあるペーストを印刷し、部品も接着剤で接合することで、柔軟に変形可能かつバッテリーレスでの動作が可能です。柔らかいのでウェアラブルデバイスに搭載するなど、人が身に着ける用途でも使えそうです。

ビーコンの置き場所や設置対象の自由度が上がれば、ジオフェンスの使い方も広がりそうです。

【参照情報】
「普通のビーコン」と「iBeacon」の違い、あなたは分かりますか?~Appleが主導するビーコン市場の現状を検証~
奈良の東大寺で環境光発電ビーコンを使った観光ガイドの実証実験 iPhone/iPadで場所に対応じたビデオガイドを受信可能 – トラベル Watch
BLE/iBeacon 消費電力ハック – Qiita
Bluetoothのバージョンの違いを説明。イヤホンの選び方には注意を

「Bluetooth LE入門 スマホにつながる低消費電力無線センサの開発をはじめよう」(鄭 立著・秀和システム)
業界初!変形自在で電池交換不要なビーコンを開発(富士通)
DNPソーラー電池式Bluetooth®ビーコン
帝都自動車交通のタクシー、ビーコン搭載で訪日外国人とのコミュニケーションをサポート

 

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