「家の前の道路に穴が開いている」「いつも通る道の街灯が切れて暗い」…街の環境改善に役立つアプリが、少しずつ自治体に広まっています。
なかなか伝わらない身近な「街の不具合」
生活道路の補修や落書きの消去、ゴミの収集などは自治体の役割ですが、限られた職員が街中を隅々まで常に見回ることは困難です。気づいた住民が役所に通報することになるのですが、そのためにはいくつかのハードルがあります。
まず、目の前の問題は役所のどの部署が担当しているのかがそもそも分かりません。また、電話で通報しようにも、平日昼間の、役所の窓口が開いている時間にかけるというのがそもそも大変です。さらに、場所を正確に知らせるのも、状況を正確に伝えるのも、なかなか困難です。そんな思いをしてようやく自治体に伝えたとしても、いつまで経っても状況が改善しないことも珍しくありません。「どうして困っているのに放置されているんだ」と不満が貯まります。
一方で、役所の立場になってみましょう。持ち込まれるさまざまな困りごとの中から緊急度を判断して対応していく必要があるため、現地を調査する必要があります。その結果、自分達で対応したり、業者に依頼したりといった方針を決めて順番に対応していくわけですが、その過程が住民には見えません。また、同じことを複数の住民から通報されると、その応対に手間を取られます。がんばっているのに住民には伝わらず、仕事が増えていき、こちらも不満が貯まります。
いわば、どちらも幸せになれない状態だったわけです。
はじまりはイギリスから
2007年、イギリスのmySocietyという非営利団体が始めた「FixMyStreet」という仕組みは、住民が街の「困りごと」を投稿する口コミサイトでした。利用者同士の助け合いによる問題解決を促すと共に、mySocietyは、投稿を見て、自治体に代わりに通報するという活動をしていたのです。

スマートフォンが普及すると、mySocietyは「FixMyStreet」というアプリを開発しました。スマートフォンのGPSとカメラ機能があれば、写真を位置情報付きでいつでも投稿できます。同時に、mySocietyは自治体向けに、「FixMyStreetの投稿に返信できる仕組み」を有料で提供しました。自治体にとっても、住民がアプリで通報してくれれば現地調査が楽になり、また対応状況を逐一知らせることで「仕事をしている」ことを分かってもらえます。「無視されているわけではなく、対応に時間がかかっているだけ」ということが分かれば、住民の不満もおさまるというものです。
フルスクラッチで日本版FixMy Streetを開発
やがてこの仕組みは世界各国へと広がっていきました。日本でも、イギリスのFixMy Streetに触発された札幌のダッピスタジオがフルスクラッチでFixMyStreet Japan(http://www.fixmystreet.jp)を開発し、2012年から運用を始めています。
2017年12月現在、FixMyStreet Japanをの自治体機能を利用している自治体は、愛知県半田市、大分県別府市、福島県郡山市、奈良県生駒市、福島県いわき市、埼玉県熊谷市、長野県安曇野市、群馬県渋川市、新潟県妙高市、福島県須賀川市の10自治体。他に、仙台市などで実証実験が行われています。

書き込みはゴミの問題、道路の問題、落書き、ユニバーサルデザイン、街灯の故障、その他のカテゴリーに分類されています。投稿を見ると、道路の舗装はがれ、カーブミラーや電柱の傾き、側溝の詰まり、伐採が必要な木や草むら、落書き、ゴミの不法投棄など、さまざまな困りごとがあるのが分かります。
これに対して、自治体の人が「調査します」「場所が分からないので再度情報を下さい」といったやりとりを経て、最終的に解決したら解決後の現場写真と共に解決報告をアップして終了となります。地図も表示されており、投稿されてまだ未対応のもの、対応中のもの、解決済みのものが色分けして表示されます。投稿・閲覧はスマートフォンからもパソコンからも可能です。

独自アプリを開発する自治体も
FixMyStreetの仕組みから着想を得て、独自のアプリを提供する自治体もあります。最も早い取り組みは千葉市の「ちばレポ(ちば市民協働レポート)」です。自治体が通報を解決するだけでなく、情報を見た市民が自発的に協力して対応した記録も投稿できるのが特徴で、2014年8月のサービス開始以来、2017年12月までで4500件以上のレポートを受け付け、4300件余りの課題を解決しました。困りごとのレポートだけでなく、桜や紅葉など、季節ごとにテーマを決めたお勧めスポットのレポートも受け付けています。神奈川県相模原市の「パッ!撮るん」、大阪府泉佐野市の「まちレポ泉佐野おせチョ~」など、地元のIT企業と協力して独自のアプリを開発する自治体も出てきました。

また、千葉市は、ちばレポのノウハウを他の自治体にも連携すべく、2017年10月から2018年3月までの予定で、「次世代型市民協働プラットフォーム”My City Report”」の実証実験を室蘭市、足立区、墨田区、沼津市と共に実施中です。
アプリによって困りごとを可視化することで、行政に頼るだけでなく住民が協力して問題を解決していく、「住民参加の街づくり」の仕組みとして注目です。投稿されている情報には全て位置情報がついているので、ジオフェンスで「危険個所」をプッシュ通知したり、「お勧めスポット」を知らせたりすると、より安全で楽しい街づくりに役立ちそうですね。
【参照情報】
・FixMyStreet
・FixMyStreet Japan | 地域・街の課題をスマホで解決
・ちばレポ:ちば市民協働レポート |トップページ
・My City Report
・道路の穴、アプリで直る?相次ぐ導入自治体、犬フン被害に対応も…(with News)
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