IoT、ビックデータの活用 【イーグルバス】

この記事を3行で説明すると……

  • IoTとかビッグデータって、結局どう使うの?
  • 「バス革命」! 小江戸川越イーグルバス
  • イーグルバスの活用事例の数々

【IoTとビックデータ】

家電、パソコン、自動車、ウェアラブルデバイス、様々な機器とITが繋がる、「モノのインターネット」=IoT。無意識のうちにスマホが一日の移動歩数をカウントしていたり、消費者の傾向を読み解くには十分なビッグデータが蓄積されてきています。

でも、IoTやビッグデータを使って、どうやって目前に迫っている課題の数々をどう解決すればいいの?

今回の記事ではIoTとビッグデータの活用により、経営を大きく改善した例について触れてみたいと思います。

【イーグルバス】

路線バス業界は、通勤・通学の手段として発展を遂げていましたが、近年では少子化等による利用者減により不採算路線での撤退が続いていました。交通インフラの縮小に伴い地域そのものも衰退するという悪循環。

そんな中、埼玉県「小江戸・川越」に本社を構えるイーグルバスは、西武バスが撤退した日高市発着路線の引き継ぎを受けます。
「バス革命」とも言われるIoTとビッグデータ的アプローチにより、業績はV字回復。
現在では、路線/送迎/高速/観光/貸切の各バス事業に総合的に取り組み、データを分析して区間ごとの乗降人数や運行状況を可視化。
情報化の促進に貢献した企業として国土交通大臣賞も受賞しました。

バス会社の規模としては中堅。都内で広く利用できるPASMOやSuicaの利用ができないにも関わらず、自社バス運行管理システムをラオス人民民主共和国に輸出するまでになったIoT活用方法とは、一体どんなものだったのでしょうか。

【情報の可視化】

赤字路線を引き継いだ直後、全く利用者のいない「空気を運んで」いた初年度は、2000万円の赤字。
状況を改善しようにも、何故利用者が少ないのか、運行本数が少ないのか、今の路線にニーズは無いのか、対策を打つにも課題そのものが掴めない状況でした。

そこでイーグルバスは、徹底したデータに基づく「運行状況の可視化」を始めます。
まず、全路線バスにGPSと赤外線センサーを導入。センサーは乗降口上部に設置して乗降の人数をカウントしました。これにより、「乗降の様子」、「季節、曜日、時間帯による差」、「遅延状況」等を把握することができました。

合わせて、現実に即した判断の材料とする為、必要なコストを判断する単位を「1台」「1本(運行本数)」から、「1分」や「1km」といった単位に変更。同一路線内でも「A~B区間は赤字」というように問題をより詳細に顕在化することに成功しました。

データ可視化後は利用者アンケートや地域住民の意識調査と組み合わせることで、ダイヤの見直しや利用者数に応じたダイヤ改正や停留所の新設等を含む運行の最適化を図りました。
次の章では具体的な改善事例について触れていきます。

【具体的な改善事例】

《日高市の事例》
周辺環境の変化によるニーズの変動に対応できたケース。
とある路線で頻発していたダイヤ遅延。分析の結果、原因は途中のバス停の近くに新設された温泉施設でした。温泉を楽しむ利用者により乗客数が急激に増加。乗降などに想定以上の時間がかかり遅延が発生していました。

イーグルバスはダイヤを改正。運行本数を増加させ、余裕のあるダイヤに変更することで遅延は解消。乗降客数は25%向上することになりました。

《小江戸川越巡回バスの事例》
シーズンによるニーズの変動に対応できたケース。
イーグルバスのお膝元である、小江戸川越の巡回バス。最近注目を集めている小江戸の街並みも手伝い、観光客の利用も増加。観光客はスポットでのバス利用となる為、シーズンや曜日、時間帯ごとに利用者の変動が大きいという特徴がありました。
従来は増車をすることで対応していましたが、当然コストも嵩んでしまいます。

そこで、各車両の乗車密度を分析することで観光客の移動パターンを想定。
混雑する区間と全く利用者のいない区間を切り分けすることができました。利用者がいない時間帯はその区間を運行せずに折り返して混雑する区間の運行に充てることで、コストを押さえながら利用者の増加に対応することができました。

《ときがわ町、東秩父村の事例》
潜在的なニーズに対応し、新しい運行モデルの作成に成功したケース。

ときがわ町では、住民全戸アンケートの結果、4割の住民から「バスの運行本数が少ない」という声が上がりました。運行本数が少ない原因は、既存の路線存在していた、長い運行距離の路線。例えば片道1時間かかるバスは往復で2時間必要となる為、そのバスの運行頻度は2時間に1回となります。新車両を導入するには、これまた莫大な導入コストがかかることに。

これに対し、イーグルバスは利用者数データ等の裏付けを元に、「ハブ&スポーク方式」を導入して解決を図ります。これは町の中心部にハブとなるバスセンターを設置することで、各停留所からの運行は半分の時間に収めることができます。上記の例で言えば、各停留所からは、片道30分でハブに到着できるため運行頻度は1時間に1回と時間を短縮することになり、輸送量は2倍に増えることになります。バスの稼働に余裕が生まれれば、混雑する路線にその分のリソースを割くことが可能です。

また、バスセンターを経由すれば、1地点だけが目的地だったバスも、複数地点へと辿り着けることとなります。車両を増やすことなく利便性を向上させることに繋がりました。

また同様の試みを、2016年9月より東秩父村でも採用。「和紙の里」にのりつぎバスターミナルを設置。周辺路線の再編は勿論、農産物直売所やインフォメーションセンターも開設し、地域の活性化にも一役買っています。

《その他》
他にも、行楽シーズンの乗降に対応することで路線全体を見直したり、競合他社の運行便数減少に伴うニーズの増加に対応し停留所を新設したりと、IoTとビックデータから得られる知見を元に、幾つもの施策を打ち出しました。

データの分析から新サービスも生まれました。予約を受けた時にだけバス停まで迎えに来てくれる「デマンドバス」は、利用者のいない時には運行する必要もなく、到着した地点からは別路線のバスを利用してもらえることとなり利用者増の循環を生みました。

【分析の方法次第】

とは言え、データは分析の方法次第というケースもありました。

イーグルバスの利用者アンケートの中では、「電車との乗り換え時間が短すぎる」との声が多かった為、それまでの乗り換え時間3分を10分へと変更したところ、なんと利用者が激減してしまったのです。

よかれと思った実行したダイヤ改正ですが、今度は「乗り換え時間が10分は長すぎる」という感想を持たれてしまったからでした。

この行き違いの原因は、アンケートの取扱いにありました。
アンケート回答者の多くは、日中にバスを利用する高齢者でした。通勤通学のバス利用者は不満を感じておらず、そもそも「アンケートに回答していなかった」わけです。

つまり本当の意味では、情報の可視化ができていなかった。

そこに留意し、早朝や夕方の通勤通学時間帯は乗り換え時間を3分に、日中は10分にダイヤを改正すると、利用者数はすぐに元通りに。

データの可視化は便利でもあり、必要でもありますが、それは一つの側面を表していません。
実際には異なる視点と組み合わせ、時にはアナログ的である判断が必要なことを教えてくれています。

イーグルバスでも、徹底したデータによる最適化を進める一方、KPIは利用者の満足度だけとしています。
一番気になるであろう収支はKPIには設定されていません。
バス事業のコストの大部分は車両費と人件費が占めています。どちらも社会情勢や経済状況によって激しく変動する要素である為、収支をKPIに設定してしまうと、行った施策の効果がわかりづらくなってしまう為です。

業界によって、情報の可視化やビッグデータの活用方法は様々でしょうが、何が必要で何が不要かの見極めが問われます。

【参考リンク】

イーグルバスがセンサー活用で赤字路線を再生、1分・1キロ単位で収支を改善(日経BigData)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/bigdata/20140217/259878/?P=1

デジタル時代の新しい経営術とは 赤字にあえぐ地域の足をデータ活用で再生~イーグルバスが具現化した「バス革命」とは~(日立製作所)
http://www.foresight.ext.hitachi.co.jp/_ct/17002818

隣町の赤字路線を引き受けた埼玉・川越「イーグルバス」 地域で支える「公共交通」のあるべき姿を訴える(キャリコネニュース)
https://news.careerconnection.jp/?p=13483

交通政策審議会交通体系分科会 地域公共交通部会 資料2(イーグルバス株式会社)
http://www.mlit.go.jp/common/001016941.pdf

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