IoT端末としての可能性が広がるAmazon Dash Button

専用ボタンを押すだけで、必要な日用品が「当日お急ぎ便」で届く。2015年3月にアメリカで発表されたAmazon Dash Buttonが、2016年12月から日本でも利用できるようになりました。「人手不足が深刻な物流業界をさらにいじめるDDoS攻撃発生装置」とも言う人もいますが、その仕組みはさまざまな可能性を秘めています。

【Wi-Fiで直結したいわゆるひとつのIoT】
仕組みの解説の前にAmazon Dash Button(以下ダッシュボタン)のサービスをざっとおさらいしておきましょう。

ダッシュボタンはAmazonプライム会員向けのサービス。専用のボタン型デバイスを押すだけで該当商品を「お急ぎ便」で注文完了します。カラフルな専用ボタンには商品のロゴが印刷されており、このボタン自体も広告媒体として機能していると思われます。

対象商品はトイレットペーパーやミネラルウォーターなどの日用品で、マーケティング的には「習慣的購買行動」で購買されるアイテムが中心です。「習慣的購買行動」とは、消費者の購買関与度が低くブランド間の格差が小さい場合に見られるもので、要は「何を買っても大差ないので、比較検討することもなく、なんとなくいつものブランドを買う」という行動をさします。利用者にとっては「思いついたらすぐ買える」、ボタンを提供するメーカーにとっては「確実に自社製品を選んでもらえる」、Amazonにとっては「必ず自社サイトから買ってもらえる」という、きわめて優れた囲い込みシステムです。

ダッシュボタンのセットアップは、スマホのamazonアプリを使用して行います。とはいえ、スマホを使うのはボタンに「Wi-Fiのアクセスポイント」と「ボタンを押したときに注文される商品」をセットする時だけで、ダッシュボタンはWi-Fi経由でインターネットに直結されているのです。

これが「ダッシュボタンはInternet of Thingsサービス」と言われる所以です。IoTといえばインターネットに接続されたセンサーが何かを検知して、それをトリガーとしたアクションが発生する、という説明をされますが、ボタンが「購買需要の発生」を検知するセンサーで、それをトリガーとして「商品の発注と配送」が発生するシステムととらえれば、これはまさしくIoTです。

【何でもできるAWS IoTボタン】
「ボタンをトリガーにしてアマゾンに商品を発注できるなら、他のこともさせられるんじゃないの?」と技術者であれば考えるでしょう。Amazonの技術者も同じことを考えたらしく、アメリカではダッシュボタンのハードウェアをベースに、AWSと連携させてボタンを押すことで任意の動作をさせることができる「AWS IoTボタン」がすでに販売されています。

AWS IoTボタンを使用すると、開発者はコードを書かなくても、AWS上にあるプログラムやデータベースで構成されたサービスの利用を開始できます。たとえばアイテムを数える、何かを呼び出したりアラートを出す、何かを開始・停止する、サービスをオーダーする、フィードバックを送るといったことがボタン一つで可能になるのです。Amazonではなくてお気に入りのピザ屋に「いつものピザ」をボタン一つで注文する、ガレージのシャッターを開閉する、IoT電球のHueをコントロールする、といったことがボタンひとつでできるようになります。

AWS IoTボタンをデバイスとしてアプリケーションに接続するために利用されるのが、クラウドプラットフォームであるAWS IoTです。デバイスを安全に接続するために必要なデバイスの接続管理と同期やセキュリティなどの機能をAWSによってマネージドされたサービスとして提供しています。また、デバイスから送られてきたデータをルールエンジンによって変換し、適切なアプリケーションやサービスに配信します。

デバイスから送られてきたデータは、ルールエンジンによって評価をされ、適切に変換とエンドポイントへの配信をルールに従って実行するといったことが可能になります。これによって、接続されたデバイスによって生成されたデータを収集、処理、分析、実行する IoT アプリケーションを簡単に構築できるのです。

【AWS IoTで提供されるさまざまなサービス】
ちなみにAWS IoTは、AWS IoTボタンのために作られた仕組みではなく(名前がややこしいですが)、クラウドにデバイスを安全・簡単に接続するためのプラットフォームなので、AWS IoTボタン以外のデバイスやセンサーも接続できます。AWS IoTを利用したスマートフォンによるドアの開閉アプリに39Geoplaのジオフェンスを組み込むと、「人が建物に入るとアプリのトークンを利用して誰が入ったかを識別してドアロックを開け、入退室を記録する」なんてソリューションも実現できそうです。

AWSのサイトやカンファレンス、インタビューなどでAWS IoTによるAWSとデバイスの連携のさまざまな事例が紹介されています。いくつかピックアップしてみましょう。

車をセンサーとして活用
BMWの「CARASSO」は、車のセンサーデータをAWSに送り、分析しながら車にフィードバックするという取り組みです。「Learning Maps」というアプリケーションは、センサーデータを地図に反映することで、ナビゲーションや車のセッティングをリアルタイムに最適化します。

大量のヘルスケアデータ蓄積基盤を構築
オランダのフィリップス社では、AWS上でヘルスケアプラットフォーム「フィリップス・ヘルススイート」を構築し、血圧計や体温計などのヘルスケアデータを蓄積して身体の状態をモニタリングできるサービスを提供しています。

回転寿司の鮮度管理と正確な需要予測
回転寿司チェーン大手の「スシロー」を運営するあきんどスシローでは、回転寿司の皿にセンサーを付け、スシの鮮度管理を行っています。長い間回り続けているものは鮮度が落ちていると判断し、適切に廃棄すると同時に、「廃棄されたネタ」をリアルタイムに可視化することで適切な品出しが可能になります。また、来店客と食べた寿司の量や種類を蓄積したデータをもとに、来店から1分後と15分後の需要を予測しています。これにより正確な需要予測が可能になるため、食材廃棄率が大幅に削減できたそうです。

来店客の店舗内動線を可視化
北部九州と山口でホームセンター「グッデイ」を運営する嘉穂無線では、ショッピングカートにタグをつけて位置情報をリアルタイムに測定することで、来店客の動線を分析しています。店内のどこに人がたくさんいるのかが時間帯別にわかるので、商品の陳列を変えて売上をアップしたり、従業員の配置やパートタイマーの配置を最適化することで経費削減につなげています。

畑の状態を可視化することで「最高の苺」を生産
茨城県のいちご専門農家「村田農園」では、ビニールハウス内の気温・湿度、土壌の温度・水分量、日照量、CO2濃度などをセンサーで測定しています。水やりや追肥などの農作業が環境にどのような影響を与えているかを可視化することで、熟練作業者の経験を数値化し、経験が浅い作業者にも的確な作業ができるよう情報で支援します。また、リアルタイムにハウス内の環境をモニターし、換気、エアコン、水やりなどの作業を自動化することでハウス内の環境を適切に保ちます。こうした取り組みで、高単価で販売できる品質の高い苺の終了を増やし、収益増加につなげます。

【AWS IoTボタンで寄付をする】
話をボタンに戻しましょう。AWS IoTボタンの面白い活用例として最近話題になったのが、ボタンを押すたびに「アメリカ自由人権協会(ACLU)」に5ドルが寄付できる「ACLU Dash Button」です。

トランプ米大統領が提唱する移民排除政策は大きな議論を巻き起こしていますが、ACLUはこれに対していち早く反対を表明し、抗議活動を展開しています。このボタンを開発したNathern Pryor氏は、友人の「トランプ大統領の攻撃を見た時に、いつでもACLUに寄付ができるボタンがあればいいのに」という思いつきをカタチにしたのだそうです。

ACLUに寄付するためのAPIは用意されていないので、Pythonでスクリプトを書いて「ボタンを押すとACLUの寄付用ページを開いてフォームの内容を埋めて送信し、受付けられたらスマホにメッセージが届く」という機能を実現しました。

さまざまなことができるプログラミング可能なAWS IoTボタンですが、今のところ米国内のみでの販売となっており、日本では利用できません。日本でも早く発売されるといいですね。

板垣朝子(オルガノーバ)

 

【参照情報】
Amazon Dash Button
https://www.amazon.co.jp/b?node=4752863051

AWS IoT ボタン
https://aws.amazon.com/jp/iot/button/

AWS IoT
https://aws.amazon.com/jp/iot-platform/

AWS 導入事例: Philips ヘルスケア
https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/philips/

IoTは第二章へ。AWSのIoT対応で加速するモノのインターネット。
http://scrum.vc/ja/2015/10/12/aws-iot-platform/

アマゾンのIoTプラットフォーム、”AWS IoT”の特徴と、その実績 ーアマゾンウェブサービス 瀧澤氏、榎並氏インタビュー https://iotnews.jp/archives/15332

AWS 導入事例:株式会社 あきんどスシロー
https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/akindo-sushiro/

スマート農業における IoT活用事例 – スマートIoT推進フォーラム
http://smartiot-forum.jp/application/files/2414/7979/2118/sIoTf-techstd-ptf-2016-11-22_01-1.pdf

The ACLU Dash Button
https://medium.com/@nathanpryor/the-aclu-dash-button-16719e446363#.ha2dt1vnq

 

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